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2022.04.25

陶延リュウ『無限の住人 幕末ノ章』第6巻 万次長州へ そして高杉の顔は

 幕末の世に生きる万次を描く本作も、この巻から新展開。新選組との戦いをひとまず終えた万次は、中岡慎太郎とともに長州に向かうことになります。そこで彼を待っていたのは奇兵隊の高杉晋作――しかしその顔は!? 思わぬ出会いと新たな戦いが描かれます。

 坂本龍馬とともに訪れた京で、新選組と幾度となく刃を交えることとなった万次。龍馬・以蔵・彦斎らと共に山南率いる逸番隊と天王山で激突、これを壊滅させた万次は、ひとまず虎口を脱した形となります。
 そして龍馬が海軍操練所閉鎖に伴い会社――すなわち海援隊を設立に向けて奔走し、薩摩の西郷に接近する一方で、万次は長州に向かう中岡慎太郎から用心棒を依頼され、同行することになるのでした。

 思えば長州は万次にとっては因縁の地――かつてアメリカから帰国した際、万次は長州に漂着、野山獄に繋がれ(ほんの数コマですが高須久子が!)、そこで吉田松陰と出会っていたのであります。
 しかし当時の長州藩は下関戦争の敗北に加え、禁門の変を経ての長州征討によって打撃を受け、藩内で佐幕派と勤王派の血で血を洗う争いが続いている状況。その中でも勤王派の旗色が悪く、ほとんど壊滅寸前だったところに、敢えて慎太郎が出向く理由とは……


 一方、新選組は度重なる戦闘の中で失った戦力の補充のために、近藤と平助が江戸に赴くのですが――そこで仲間に加えたのが、北辰一刀流伊東道場の猛者たちであります。
 正直なところ伊東派の面々は、一部の例外を除いて、個人としてはあまり印象に残っていなかったのですが、本作においては皆なかなかの面構え。個人的にはその印象は、むしろ逸番隊よりも逸刀流に近いものを感じさせてくれます。

 しかしそんな面々があっさり近藤たちの下に入るはずもなく、いきなり険悪なムードとなるのですが――何よりもわかりやすい相互理解のために提案されたのは、双方の代表戦。ここで「新選組」側の代表は沖田、一方、伊東側の代表は服部武雄――!
 服部はまさに上に述べた一部の例外、新選組でも二刀流遣いの達人として名を馳せましたが、この二人の激突はまさに名人戦というべきでしょう。剣戟の面ではこの巻のメインというべき激闘は、大いに盛り上がります。

 しかしそれでも、その実力の一部を敢えて伏せてみせる沖田に、何ともいえぬ不穏さも感じるのですが……


 さて、物語は再び万次側に戻り、長州で慎太郎からある男を紹介されるのですが、それこそは高杉晋作。松蔭の弟子の一人であり、そしてこの時期の長州藩の勤王派を一人で支えていたともいうべき人物であります。が、そのビジュアルは――どう見ても尸良。

 これは別に尸良と血縁があるわけでは(たぶん)なく他人の空似ですが、万次も思わず驚くほどのそっくりさんです。
 なるほど「狂」的なイメージのある(そして写真では短髪なこともあって)人物だけに、意外と違和感のない高杉の尸良顔。もっとも性格の方はあまり似ておらず、万次を襲った女刺客と戦った際も、全く容赦はしなかったものの、決して己の快楽のために斬ったりはしない辺り、やはり別人であります。

 とはいえ、であるならば何故同じ顔に――という印象はあるわけで、本作ではこれまでも本編のキャラを思わせるキャラがちょこちょこと顔を出してきましたが、ここまで有名人でというのは初めて。一種のスターシステムとはいえ、やはり違和感は否めません。

 それはさておき、顔に似合わぬ(?)高杉の風雲児ぶりには、万次も感じ入るものがあった様子。それどころか、下関でのクーデター開始早々に刺客によって深手を負った高杉から頼まれ、その影武者を引き受けてしまうのですから驚かされます。
 この辺りは前巻での八百比丘尼との対話もあり、またそもそも万次って意外と人が良いわけですが、武士の理屈とか大義名分とかを嫌う人間だけに、対面してからわずかのうちに、ここまで肩入れするのにも違和感がありますが……(まあ、高杉は他の武士よりもずっと万次に近い人間だとは思います)


 というわけで、これまでとは全く形で歴史に関与することとなった万次ですが、しかし彼を付け狙う怪剣士たちが新たに登場します。あの見廻組の佐々木只三郎率いるその名は「挽斃連」――伊東派が逸刀流だとすれば、こちらは六鬼団を思わせる曲者揃い。
 今は長州の佐幕派に協力しているものの、真の狙いは万次だという彼らの目的は――幕末ノ章、まだまだ先は長そうであります。


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