青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第5巻 ひとまずの別れ そして舞台は戦場へ
金の皇女アイラが宋で繰り広げてきた恋と冒険を描いてきた本作も、この第5巻で一つの節目を迎えます。宋の秘密兵器開発も絡んだ宋の後継者争いに巻き込まれ、白凛之が仕える皇太子のために力を貸すことになったアイラ。一方、遼との戦いが激化する中、思わぬ事態から物語の舞台は金に移ることに……
親善大使として宋に残って暮らす中、康王とともに宋の火薬を使った新兵器の秘密にまつわる争いに巻き込まれたアイラ。初めは自分たちが新兵器を開発しているという第三皇子のウン王の言葉を信じた二人ですが、真実は皇太子が担当している新兵器開発を、ウン王が妨害していたと知ることになります。
さらにウン王の妨害はエスカレートし、放火により焼け落ちてしまう工廠。皇帝に直訴しようとしたアイラも、円珠の秘密を握ったウン王が康王を揺さぶったために断念することに……
というわけで、口封じに自分に毒を盛ろうとまでしてきたウン王の卑劣な策略にもめげず、凛之たちを助けるため奔走するアイラたちの姿が描かれるこの巻の前半。
しかし新兵器のために最も重要な原材料が焼け落ちてしまい大ピンチという状況に、さすがにアイラが協力できるはずもなく――とおもいきや、という展開はいかにもお話的に感じますが、なるほどこういう効用があったのか! という打開策は、女性主人公ならでは――といっても許されるでしょうか。
(恥ずかしながら、現代でも使用されているとは知りませんでした……)
さて、不承不承手を康王も力を貸して、ついに迎えた皇帝の親閲式での新兵器お披露目ですが――その成否もさることながら、ここで印象に残るのは、皇帝の側近くに仕える者たちの顔ぶれであります。
宰相にして最高実力者の蔡京、その息子で徽宗の最側近の蔡居安、宦官ながら軍事のトップの童貫――とこの時代を舞台にした物語ではお馴染みの面々。特に童貫はこういうビジュアルになるのか! と感心させられます。
しかしもう一人気になるのは、皇帝の秘書というべき内省夫人の閻月琴――怜悧な美人という印象の彼女は、なんと凛之の元許嫁! この月琴、どうやら宮廷のかなり後ろ暗い部分にも関わっているらしく、凛之との過去も含めて、この先、注目のキャラというべきでしょうか。
(ちなもに凛之の真の姓が今回語られましたが、この時代でこの姓、そして今は没落しているということは、彼の縁者は……)
さて、皇帝と皇族だけでなく、この国を実際に動かしている者たちの登場に、本作が歴史ものであることを再確認させられた思いですが、この巻の後半では、さらに歴史が動き始めることになります。
いよいよ遼を圧倒する金軍を率いる、アイラやウジュ、オリブたちの父である金国皇帝。その父が病に倒れたという思わぬ報せに、アイラは急遽金に帰国することになるのです。
しかし遼と金・宋の戦いがいよいよ佳境に入った上、もともと金と宋も(特に後者は)互いを窺い合う状況。そんな中で皇帝が病に倒れたと知られるわけにはいかないのは言うまでもありません。
かくて、凛之はもちろんのこと、宋の人々には祖母が倒れたという名目で宋を離れたアイラ。しかし蔡居安は、康王を見舞いに向かわせるという名目で、(康王本人にはそれと知らせぬまま)、金の内情を探らんと企むのでした。
一方、金が遼に攻勢を強める中、宋のみ手をこまねいているわけにはいきません。金との盟約に従い、遼の首都・燕京を攻めることとなった宋軍ですが、その決め手として、凛之たちも新兵器を携えて戦場に向かうこととなるのです。
これまでは宋の国内、それも皇室が中心ということで、作中では直接的にはほとんど描かれてきませんでしたが、アイラの物語の背後では、三つの国の激しい戦いが繰り広げられてたのは史実が示すとおり。
この巻の後半の展開は、その戦いが、ここからアイラ自身の物語に関わってくるということなのでしょう。
そして歴史の中で金と宋という国が、そしてそこに暮らす人々がどのような運命を辿るかも――そしてその過酷さも、我々は知っています。そこでアイラが、凛之が、登場人物たちがどのような役割を果たし、どのような結末を迎えるのか――いよいよ物語は佳境に近づいているというべきでしょうか。
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