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2022.04.14

うちはら香乃『異界譚里見八犬伝 番外編 刹那の奇跡』 信乃、戦場帰りの父に出会う

 「朝日小学生新聞」連載中の『異界譚里見八犬伝』の番外編であります。序章と一章の間の時期に、信乃が垣間見た父と母のかつての姿とは――犬塚家のルーツを描く短編であります。

 山犬討伐に向かった先で、その山犬たちを操る謎の美女・玉梓に襲われ、伏姫神の加護で辛うじてこれを打ち破った信乃。その伏姫神から、信乃は里見の犬士としての自分の宿命を教えられ、孝の玉を授かることに……

 という序章から、信乃が古河に旅立つ一章の間に位置するこの番外編。荘助から、かつて父・番作が里見家の人々とともに結城城に立て籠もっていたと聞かされた信乃は、躊躇いながらもかつての話を聞いてみることを決意します。
 が、番作は手習いの授業(の最中に居眠り)中。そして信乃は浜路とわちゃわちゃやっているうちに縁側から転落してしまうのでした。

 と、気がつけば信乃は一人夜の道に。そこで兵士たちに追われるボロボロの若者と出会った信乃は、それが父の若き日の姿だと気付きます。そしてその後を追いかけた先で、父と母の出会いを目撃することに……


 『南総里見八犬伝』では冒頭に語られた、結城合戦から始まる過去の物語。一方本作は、信乃の物語として始まったことで、この序章ともいうべき部分は、一旦省略されることとなりました。

 そのうち伏姫伝奇に当たる部分は、後に三章で、信乃たちがヽ大法師から聞かされるという形で描かれましたが、もう一つの結城落城にまつわる物語――信乃の父・番作と母・手束の過去については、これまで語られてきませんでした。
 それがここで描かれるとは、と少々驚きつつも、この後の物語の流れを思えば、描くとしたら、このスタイルになるのは頷けます。

 さて、その内容の方は、いかなる奇瑞か結城落城後の時代に現れた信乃が、村雨を持ち三つの包みを携えた父・番作と出会い――と、原典の第二集で描かれた番作の姿を踏まえて描かれます。
 もっともここでの出会いは、サブタイトルの通り、まさしく「刹那」――というより目撃に近いものではあります。しかしここでの番作の姿は、この時点の信乃にとっては最も縁遠い、戦の空気を漂わせたもの。それが彼の心に強い印象を残したことは疑いようもありません。

 ことに番作が抱えている包みの中身について気付いたこと(そして村雨は落としても包みは落とさなかったこと)は、信乃にとっては――そして主たる読者層にとっても――大きなインパクトを与えたことでしょう。
(そしてあと二つの包みについては特に触れられていないのは、これは本作ならではの視点ではあると思います)


 本編ではこの後、大塚村を襲った惨劇で、落命した(とはいえ明示はされていませんし、浜路の例もありますが……)番作と手束ですが、図らずも大切な人を失うこととなった信乃が、両親のことをどのように思い出すのか――ページ数としてはごく短いものながら、そんなことも考えさせてくれる一編です。


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