たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記 博多編』第6巻 「神風」吹かず そして総司令官時宗の真実
「神風」は吹かず、真正面から蒙古軍の大群と対決することとなった日本武士団。前巻での迅三郎の奇計により、筥崎勢も合流したものの、不利は変わりません。それでも戦い続ける迅三郎を突き動かすものとは何なのか。そして鎌倉に座す時宗の胸中にあるものとは……
対馬から博多に上陸し、さっそく蒙古軍に痛撃を与えることに成功した朽井迅三郎。しかしなおも「政治」に拘り、筥崎から動こうとしない大内勢に業を煮やした迅三郎は、なんと筥崎宮を焼くという暴挙に出るのですが――その祟りというべきか、ついに吹いた暴風雨。しかしそれが蒙古船団に影響を与えることなく、無数の船団が博多に迫り……
と、「神風」を真っ向から否定した末に始まるさらなる戦い。しかしこの巻の冒頭では一端時と場所を変え、鎌倉幕府執権たる北条時宗の姿が描かれることになります。
かつて迅三郎の運命を変えた二月騒動(無印第四巻)において、北条の分家たる名越時章を討たせた時宗。その際、彼は気弱な若者のふりをして大蔵頼季を使嗾し、その上で全ての責任を頼季にかぶせるという狡猾な姿を見せました。
その時の印象が強いため、本作では――「政治」に走る武士の象徴として――良い印象がない時宗ですが、今回描かれるのは、元寇十二年前から今に至るまでの彼の姿とその胸中であります。
幼い頃から北条家の得宗となることを運命づけられ、親族すら油断できない曲者揃いの鎌倉武士の中で生き抜いてきた時宗。己に背負わされたものを理解し、そしてそのために懸命に努力してきた時宗ですが、しかし異国からこの国全てを守るという責任を負わされるとは、さすがに想定の範囲外だったでしょう。
いや、彼が執権になる前にすでに元からの国書が届いていたことを思えば、彼はそもそも対蒙古戦の総司令官となるために執権になったということ。その重圧たるや想像を絶するものですし、そんな彼に対してそれまで様々な形で指導を行ってきた北条政村の最期の教えなど、実に沁みるものがあります。
そんなわけでこの巻の1/3かけて描かれるのは、単純な冷酷非常な権力亡者でも策謀家でもなく、彼なりの形で蒙古と戦っていた時宗の姿なのですが――さて、仮にそれを知ることがあったとして、その大義のための犠牲となってきた者たちの一人である迅三郎は何を思うでしょうか。
いずれあるだろうと個人的に期待している二人の対峙の時を待ちたいと思います。
さて、この後、時間軸は再び「いま」に移り、嵐にも負けず――いや、これをむしろ「神風(テングリの風)」として総攻撃を開始した蒙古軍二万を迎え撃つ、日本武士団四千の息浜での戦いが描かれることになります。
しかし少弐景資が期待した援軍は、「神風」によって増水した筑後川を渡ることができず、戦に間に合わない状態。(ここで「間に合わなければ援軍ではない!!」と激昂する景資に対する迅三郎のツッコミがごもっとも過ぎる)
それでももちろん戦うしかない日本軍の前に現れたのは、蒙古の騎馬兵――軽装による敏速な動きによって重装の武士を翻弄する蒙古兵ですが、ここで一発決めるのが迅三郎。さらに馬の剽悍さでは日本側も負けておらず、戦況は互角と思われたのですが……
そこに出陣してきたのは、対馬で散々迅三郎と激突してきた副元帥・劉復享。しかも彼が擁する騎馬は、全身を鉄の鎧で覆ったかつての金の騎兵隊・鉄浮屠――鎖で繋いでこそいないものの、これはどう考えても連環馬! と水滸伝ファン的には勝手にテンションも上がります。
そしてここで迅三郎と劉復享の因縁の対決が――と、この戦いの結末については伏せますが、いやはや、運命というものは皮肉であります。
(そして迅三郎の対鉄浮屠戦法にも、この手があったかと感心)
しかし息浜での激戦が続く最中、博多の西の河岸にこれまた因縁の高麗の将・金侁が上陸。浮足立つ日本軍ですが、その一帯に対馬出身者たちの集落があることを知った迅三郎は――まだまだ先が見えない戦いは続きます。
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