岩崎陽子『無頼 魔都覚醒』第2巻 無頼完結 池田屋事件、そして斎藤が見せた顔
岩崎陽子による新選組漫画『無頼 魔都覚醒』の第二巻にして最終巻であります。天海外法陣の封印が解かれたためか、不穏な空気が漂う京。その京を焼き払おうという暴挙に対して立ち上がる新選組の戦いが、池田屋を舞台に繰り広げられます。しかしその最中に沖田が血を吐いたことを知った斎藤は……
謎の水晶髑髏争奪戦に巻き込まれたことがきっかけで、京の霊的封印・天海外法陣の存在を知った斎藤と沖田。幕府からその解放を依頼された医師・平賀に協力することとなった二人は、儀式の警護に当たるのですが――しかし儀式は河上彦斎の妨害によって中途半端な形で終わり、斎藤は封印の不完全な解放が、かえって悪影響を招く可能性があると聞かされるのでした。
そんな中、新選組は枡屋喜右衛門こと古高俊太郎を捕縛、長州志士によって京の町を焼き払う計画が進められていることを知ることに……
というわけで、この巻の一つのクライマックスとして描かれるのが池田屋事件。新選組史においてもクライマックスの一つというべき事件ですが、本作においては、さらに大きな意味を持つといえます。
何故ならば本作の主人公・斎藤一の親友であり、もう一人の主人公ともいえる沖田総が、戦いの中で吐血、昏倒するのですから……
これまで、何かと悩み込み沈み込みがちな斎藤に対して、時にツッコミを入れ、時に手荒い叱咤激励を行い、友情を育んできた沖田。この巻の冒頭でも、封印解除失敗のことを悩んだ末に切腹(極端)しようとした斎藤を、「半端な死に方だけは許さない」と叱咤していたのですが――その彼が、明日をも知れぬ命となるとは。
(体調維持のための努力はするけれども、今と変わらず任務をこなしたいにという沖田の無茶なオーダーの下での)平賀の見立てでは一年が限界――偶然その事実を知ってしまった斎藤が、動揺しないはずがありません。
しかしある意味作中一の強情っぱりの沖田が、養生しろという斎藤の言葉を聞くはずもなく、ついに斎藤は沖田に言うことを聞かせるために勝負を挑むことに……
互いを親友と認めつつも、それぞれ不器用かつ面倒くさい性格故に、しばしばぶつかり合ってきた二人。しかしここでの激突ほど、緊迫感に満ちたものはこれまでなかったといえるでしょう。そしてその決着の後に、斎藤が見せた顔ほど、印象に残るものはなかったとも。
斎藤と沖田の関係性がある意味最も鮮烈に描かれたこの場面は、結果として『無頼』『魔都覚醒』を通じて最大のクライマックスであったと感じます。
その後に描かれるのは、河上彦斎との対決と不思議な共感(有名な彦斎の「はじめて「人」を斬った」発言がこう使われるとは!)や山南の悩み、そして禁門の変。
そして平賀と勝海舟、坂本龍馬の密談によって、日本の霊的改造が始動することが匂わされるのですが――ここでなんと、掲載誌の路線変更により、物語は唐突に連載終了。いやはや、まだまだ新選組の、そして斎藤と沖田のドラマはこの先もあったはずなのに……
しかしこの電子書籍版には、その後発表された「菊一文字」「蒼天」の二編が収録されています。
「菊一文字」は、池田屋事件から三ヶ月後を舞台に、その時に加州清光を折ってしまった沖田と、とある神社から新選組に持ち込まれた「菊一文字」を巡る物語。沖田が菊一文字を手にしていたというよく知られた巷説をベースに一捻り加えた展開もさることながら、沖田が神社に死蔵されていた菊一文字に己を重ねる姿と、変わらぬ斎藤との友情が印象に残ります。
また「蒼天」は、本編では出番の少なかった藤堂平助の視点から、油小路事件を描く一編。ある意味「新選組」の終わりを痛切に感じさせるこの事件ですが、そこに「先駆け先生」と異名を取った藤堂の複雑な内心と、その先の皮肉かつ切ない結末を絡めた内容は、本作の青春ものの側面が色濃く出ています。
そしてラストでは鳥羽・伏見の戦いの戦いが描かれるのですが――そこでのある史実を一種の餞として捉える結末も見事としか言いようがありません。
(にしても御陵衛士襲撃を土方が決断した理由も凄い……)
そんなわけでボーナストラック的な扱いながら、本編のその後を描く物語として、見事な内容であったこの二編。できればこういうスタイルでも構わないので、さらにこの先を読みたかった――というのはもちろん読者の我儘なのですが、しかし改めてそんなことを考えさせられてしまう佳品なのです。
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