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2022.07.13

へげかもこ『ぼくの伴侶 猫と大佛次郎物語』第1巻

 国民的作家である大佛次郎――その若き日の姿を、妻と、そして猫との関わりを通じて描くコミックの第1巻であります。新進女優のトリコに一目惚れした青年・清彦。彼とトリコ、そして猫たちの生活は……

 帝大法学部に通いながらも、文学に親しみ、将来は自分の芝居を書きたいという夢を持つ青年・野尻清彦。彼は手伝っていた舞台で、新進女優の吾妻光こと原田酉子(トリコ)に一目惚れすることになります。
 紆余曲折を経て交際を始め、親兄弟の反対を押し切って結婚した清彦とトリコですが、彼女には(清彦的に)大変な秘密がありました。清彦が愛してやまない猫――しかしトリコは、実は大の猫嫌いだったのです!

 ――という第1話から始まる本作。特に猫好きの文学好きにとっては、大佛次郎(野尻清彦)の猫好き――というより猫超好きは、つとに有名ですが、もちろん本作においてもその姿は健在であります。
 この第1話でも清彦は「猫は僕にとって必要不可欠のやさしい伴侶」と語り、アポリネールの詩の一節である「私は自分の家にもっていたい わけのわかった妻 書物の間を歩き回る一匹の猫」を引くのですが――まさかその妻と一匹の猫が不仲とは! と、意外なヒキに心を掴まれます。

 もちろん、トリコの側にも猫嫌いn理由があるのですが――それはやがて彼女が女優として活動する中で、思わぬ形で解消され、無事、彼女も猫好きに。かくて清彦とトリコと猫たちの物語が本格的に展開していくことになります。


 さて、本作はあくまでも事実を基にしたフィクションということですが――そして正直に申し上げれば、その境を見分けられるほどの知識を私は持っていないのですが――しかし、年譜に残るような出来事を踏まえつつ、その合間にあったかもしれない物語を、丹念に描く様には好感が持てます。

 この巻ではこの後、二人が鎌倉に移り住み、清彦が鎌倉女学校の教師に、ついで外務省の嘱託となり、その合間に文筆家としての仕事が徐々に軌道に乗り始め――というところで関東大震災が発生。鎌倉大仏裏の借家で暮らす中で娯楽雑誌から依頼を受けて時代小説を書くことになり、初めて「大佛次郎」の筆名を名乗る――という、非常によく知られた流れを経ることになります。
(丸善で100円の本を買って支払いに困るエピソードもあったりするのにニッコリ)

 そしてこうした物語の随所に猫が絡んでくるのですが――これはもちろん、先に述べたとおり大佛次郎の猫好きを踏まえたもの(そして掲載誌が「ねこぱんち」であることもありますが)であるとしても、しかし本作においては、猫が「明るく幸せな日常生活」の象徴として描かれている点が、何とも好感を持って感じられるのです。
(関東大震災の直前、二人の初めての飼い猫が姿を消すというのは、直球ではありますがやはり象徴的でしょう)

 ちなみに本作における猫たちですが、例外はあるものの、基本的にその辺りにいるような和猫たちが中心。しかしそれだけに親しみやすさと微笑ましさは絶品であります(やはり「日常」)。
 猫嫌いを克服したトリコの感想――「猫はやわらかくてあったかい」はありふれたものでありつつも、実感として大きく頷けるのです。


 さて、この第1巻では、『鞍馬天狗』が誕生して大評判となり、初の新聞連載(タイトルは出ませんでしたが『照る日くもる日』でしょう)もスタートして、作家として順風満帆、猫もいっぱい飼うようになって――というところで終わりました。
 次巻(最終巻)は舞台は昭和に移りますが、あの時代を舞台に、清彦とトリコと猫たちの日常がどのように描かれるのか、楽しみにしたいと思います。

 ちなみに本作において随所に顔を出す、厳格だけど雑誌の編集長をしていて仕事を回してくれる清彦のお兄さん、帝大法学部を出て講談なぞ書きおって! と、傍から見ると好きなように生きている弟に説教するのですが――しかし本人もこの時期、日本心霊現象研究会を作っていたかと思うと、ちょっと愉快ではあります。
(野尻抱影先生、ロマンチストという点では弟さん以上では……)

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