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2022.08.29

廣嶋玲子『失せ物屋お百 首なしの怪』 人間の愚かさと狂気を描く異形の人情譚

 恐ろしい妖と、それよりも恐ろしくて愚かな人間を描かせたら右に出る者がない廣嶋玲子による、異形の人情譚の第二弾であります。山神の鱗を目に宿したため、不思議な力を宿した青い目を持つお百が、今日も人の世の暗い部分を垣間見ることになります。

 表街道から外れた、一癖も二癖もある人間ばかりが集まる通称「化け物長屋」に住むお百は、生まれつき青い左目を持つ大年増。彼女は、その異形の左目と、この世ならざるものを見る力を持つために実の親には売り飛ばされ、この世の辛酸を舐め尽くした過去の持ち主であります。
 様々な過去を経て今は開き直り、左目の力で「失せ物屋」を営む彼女の前にある日現れたのは、焦茶丸という少年に化けた子狸。そしてお百は、左目に入っているのがかつて山神が浮気して妻と大喧嘩した際に飛び散った鱗だと、焦茶丸から聞かされるのでした。

 しかし自分の半生はそんなことに振り回されてきたのかと激怒したお百は、この目で千両稼ぐまで鱗は返さないと宣言。仕方なくお百の元に居着いた焦茶丸をこき使いつつ、失せ物屋稼業に勤しむことに……

 と、酒好きで守銭奴でやさぐれで――と実に個性的なお百が、焦茶丸を振り回しつつ失せ物探しに挑むシリーズの第二弾ですが、既に基本設定は前作で説明済み、というわけで、エンジン全開で物語は展開していくことになります。
 お百と交流を持つゲストキャラもも、前作で名前だけ出てきた人形師左近次や、今回その本領を発揮する(?)役者崩れの猿丸といった化け物長屋の面々だけでなく、やたらと猫に好かれるために「またたび旦那」という渾名を持つ町方同心など、ユニークなキャラが次々と登場して飽きさせません。

 が、本作の本領は、お百が受ける依頼の内容にこそあります。左近次の元から盗まれた生き人形探し、人を斬り殺してはその首を持ち去る首なし鬼探し、記憶喪失の青年の夢に現れる女の子の謎解き、廻船問屋の娘の正気探しに、子堕しした赤子の父親探し――いずれも失せ物といっても一筋縄ではいかない、それを失せ物と呼んでよいものか、と言いたくなる代物ばかりであります。

 そしてその中でお百が対峙するのは、人間の愚かさと――そして何よりも心の中に抱えた闇、狂気の存在なのです。


 最近では『ふしぎ駄菓子屋銭天堂』シリーズで人気を博し、また時代ものでも『妖怪の子預かります』シリーズなど数々の作品を発表している作者ですが、その作品の多くに共通するのは、まさにこの人の愚かさと狂気(そしてそれに対する容赦ない裁き)であり――そしてそれは本シリーズにおいても変わることはありません。
 いや、秘め隠されたものを探し暴く失せ物屋だからこそ、より一層、その存在はクローズアップされると言ってもいいかもしれません。

 それは前作でお百が焦茶丸に語る言葉――「この世で本当に怖いのは、死霊でも化け物でもない。生きた人間だよ」という言葉にはっきりと示されていると言えるでしょう。
 それは一見ありがちな台詞に見えるかもしれませんが、本シリーズで、本作で容赦なく描かれる「それ」を見れば、否応なしに納得させられるのです。

 特に本作でいえば、タイトルとなっている「首なしの怪」で描かれる人間の醜いエゴとそれに下される裁き、正気を失った娘のエピソードで描かれる直球ど真ん中の狂気など、ここまで容赦なく描くか、と読んでいて怖気を振るうほどであります。
(その他、本作で一番イイ話的なエピソードも、ディテールが十分陰惨で……)

 ここで描かれるのはいわば異形の人情話――イイ話・泣かせる話ではなく、厭な話・恐ろしい話に現れるある種の人の情を、本作は真っ正面から見据えて抉り出すのです。
 しかしその潔さがあるからこそ――そしてそれを体現するようなお百という主人公が、そんな彼女を受け止め支える焦茶丸という相棒がいるからこそ、本作は不思議にカラッとした明るささえ感じさせます。

 そしてまた、ラストのエピソードのように、そんな容赦ない物語だからこそ描ける人の優しさというものもまたあるのだと、本作は示すのです。


 内容的に少々(かなり?)人を選ぶかもしれませんが、しかし不思議な輝きを放つ物語であります。


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