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2022.08.18

深谷陽『童の神』第5巻 金時が生み出したもの、たどり着いた場所

 今村翔吾の名作『童の神』漫画版もいよいよクライマックスです。大きな悲劇を乗り越えた末、新たな道に踏み出した桜暁丸と仲間たち。京人からは恐ろしげな名前で呼ばれ、なおも朝廷軍に抗い続ける桜暁丸が、同じ童であるはずの坂田金時との戦いの先に見たものとは……

 一度は裏切られながらも、畝火・滝夜叉・粛慎の三山連合を成立させ、朝廷軍を翻弄してきた桜暁丸。しかし源頼光の奸計により滝夜叉の竜王山はその勢力の多くを失い、畝火が依ってきた葛城山・畝傍山も陥落――生き残りの民を救うために畝傍山に突入した桜暁丸も衆寡敵せず、殿軍となった畝火の頭領・毬人を残し、涙を呑んで大江山に退くことに……

 と、今村先生、いや毬人の壮絶な最期から始まるこの巻ですが、大敗北を乗り越えて大江山に依った桜暁丸たちは逆にその絆を強め、三つの山だけではなく日本中の童と結び、かつて以上の力を以て、京人の軍勢に抗うことになります。

 そんな桜暁丸たちを、京人たちはある名前を以て呼ぶことになります。粛慎の虎前は虎熊童子、畝火の欽賀・星魚兄弟は金熊童子・星熊童子、滝夜叉の葉月は茨木童子、そして桜暁丸は――酒呑童子と!
 大江山が登場した時点である程度予想していたことではありますが、そうかこの物語はこの者たちの物語だったのか、と原作を読んだ時に大いに驚かされたことを今でもありありと思い出します。

 さて、そんな京人たちからの扱いにももちろん屈することなく力を蓄える桜暁丸たちは、その後幾度となく朝廷軍を――因縁重なる頼光四天王(ただし渡辺綱を欠く)を迎え撃ち、打ち破っていくことになります。
 特にこの巻の中盤のクライマックスである坂田金時戦――筑紫の童討伐に向かう金時の軍勢を阻むため、大江山の面々が総出で挑む戦いでは、彼らの団結の象徴として(まるで水滸伝の○○○のような)秘密兵器が投入され、大いに興奮させられます。


 しかし――実はこの巻において桜暁丸と並び、いやある意味彼以上に物語の中心となるのは、この金時なのです。実は彼自身が童の出身であり、仲間たちの命と引き換えに京人の下で戦ってきた金時。しかし本来であれば同族であるはずの童たちとの戦いは、これまで幾度となく彼の心を悩ませてきました。そんな彼が続けてきた戦いの、一つの意味がここで語られるのです。

 これまで、京人から排除され、差別される童を守り、自分たちもまた同じ人間であることを示すべく、童の同志と共に朝廷軍と戦い続けてきた桜暁丸。その一方で、金時は初めは心ならずであったとはいえ、京人の中にうち混じり、彼らと共に汗を流すことによって、自分たちも何ら変わる存在ではないと示してきました。
 差別される側がより努力を強いられるこの金時の生き方は、もちろん無条件に称揚されるべきものではないでしょう。しかし少なくとも、そんな努力が彼の部隊において実り、京人も童もない多様性に満ちた空間が生まれたことは、大きな希望として受け止めるべきでしょう。

 方法こそ違え、同じものを実現しようとした――そして作中でも語られるように、一つ間違えば、互いの生き方が入れ替わっていたかもしれない――桜暁丸と金時。いわば表裏の関係にあった二人の対決は、手に汗握るものでありつつも、ひどくもの悲しいものとして感じられます。
 しかしその先に、ある意味、より直接的な形で融和の希望が描かれることになります。それは決して特別ではない、ごく普通の人間の、ごく自然な――しかし極めて強く美しい――想いが生み出したものであり、桜暁丸にとっても、幾つもの意味で大きな喜びなのです。

 ちなみにこの漫画版オリジナルの描写として、童に対して対立的であった碓井貞光と卜部季武(特に物語冒頭からエキセントリックな敵役として描かれてきた貞光!)が、金時だけでなく、童全体に対して見る目が変わってきたと語るくだりがあります。
 この漫画版は、原作の物語を忠実になぞりつつも、特にキャラクター個々人の想いを描く際に、巧みに独自の描写を加え、物語をより印象的なものとしてきました。このくだりも、金時の(そして間接的ながら桜暁丸の)努力に対する、最大限の餞として、強く心に残ったところです。
(もう一つ、この巻のラストで、ある場所に集結する童たちの描写も、これはケレン味たっぷりな格好良さという点で必見です)


 さて、この巻の終盤では、桜暁丸が、金時がそれぞれの形で追いかけてきた希望が、より大きな――というより望みうる最大の形で、桜暁丸たちの前に示されることになります。はたしてその希望が現実のものとなるのか――おそらくは最終巻であろう次巻を、心して見届けたいと思います。


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