松本救助&あかほりさとる『めんへら侍』第1巻 「らしさ」溢れる「なんちゃってでもない時代劇」!?
時は元禄、情緒不安定だけれどもバカ強い若侍・左門を主人公に展開する、あかほりさとる原作の「なんちゃってでもない時代劇」の開幕編であります。なんだかんだで三人の美少女に取り巻かれ、将軍綱吉からも直々に声をかけられる左門の明日はどっちだ!?
時は元禄十三年、天下泰平まっただ中の江戸の貧乏長屋に起居する若侍――鷹松左衛門尉伊綱、通称・左門。極度の人見知りで潔癖症、事あるごとに被害妄想に苛まれる彼の唯一の趣味は、茶屋の看板娘巡りであります。
そんな左門、今日は最推しの看板娘・お蜜ちゃんとの触れ手会(握手会)と勇んで家を出たものの、極度の緊張であたふたしているうちに制限時間は終了。絶望に沈む中、お蜜を拐おう現れた破落戸どもに「へっぽこ侍」呼ばわりされた左門は大爆発して……
そんな左門の正体(?)は、十万石分の格式を許された筆頭旗本・鷹松家の若様――松平家に養子に出た弟は若くして老中となり、弟ともども時の将軍綱吉にも親しく言葉をかけられる(というか無理難題をふっかけられる)身の上であります。
しかも身から出た錆で加賀前田家の龍姫からは一方的に求婚され、吉原大見世の胡蝶太夫からは一方的に押し倒され――と、恵まれているのか不幸かわからない左門が、周囲に騒動を起こしたり周囲の騒動に巻き込まれたりする様を、本作は賑やかに描きます。
本作の原作者であるあかほりさとるは、言うまでもなく90年代を中心に小説・漫画原作・アニメ脚本と八面六臂の活躍を見せたクリエーター。近年はあかほり悟、あるいは赤堀さとる名義で歴史時代小説を発表してきましたが、本作は時代ものでありつつも、あかほりさとる名義の作品であります。
この辺りの使い分けの事情は存じ上げませんが、美女三人に囲まれて振り回される主人公の姿と、どこに転がっていくかわからないハイテンションな物語展開は、ある意味原作者のイメージの最大公約数的に「らしい」と感じます。
しかし茶屋娘のほとんど現代の「会いに行けるアイドル」的な描写や、ほとんど説明なしに左門が月代剃っていない(江戸城内でも総髪)という点はあるものの、描かれる物語の内容やディテールはなかなかに「時代もの」している本作。単行本の宣伝文にある「なんちゃってでもない時代劇」というのは、まさに言い得て妙と感じます。
ただ正直なところを申し上げれば、本作のタイトルに冠され、左門の最大の特徴であるはずの「めんへら」が、いまいちピンとこない印象があります。身も蓋もないことを言ってしまえば、左門そこまでメンヘラか? という気分になってしまうという……
これはメンヘラという言葉の持つイメージが強すぎることと、むしろその左門の方が周囲に振り回されているからなのですが、そのために物語自体の軸や焦点がわかりにくくなっている感があるのは、何とももったいないお話であります。
はたしてこの先、左門が物語を振り回されるのか、左門が物語に振り回されるのか――それによって作品の内容と評価もだいぶ変わってくるのではないかと感じます。
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