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2022.08.30

ジョンストン・マッカレー『快傑ゾロ』 自主独立の旗手、覆面の好漢見参!

 強きをくじき弱気を助く覆面のヒーローとして、幾度となく映画等で描かれてきた快傑ゾロ――その原点である、ジョンストン・マッカレーの小説であります。カリフォルニアがスペイン領だった頃、専横を極める総督一派を蹴散らす謎の盗賊紳士の痛快な活躍が始まります。

 おそらくは18世紀末、南カリフォルニアの小さな村、レイナ・ド・ロス・アンヘレス(後のロサンゼルス)の砦に駐屯するペドロ・ゴンザレス軍曹を悩ませるのは、神出鬼没の盗賊・快傑ゾロの存在。
 「カピストラノの疫病神」とも呼ばれ総督から莫大な賞金がかけられたゾロを追う軍曹ですが、何故か彼のいないところにばかりゾロは現れる――そんなことを酒場で愚痴っていた軍曹の前に現れた男こそ、なんと快傑ゾロその人ではありませんか。数日前にインディアンを殴ったことを罰するために現れたというゾロは、軍曹を一対一の決闘で圧倒、あっという間にその場から姿を消すのでした。

 その翌日、かつては名門として知られながら、今は総督に睨まれて没落の一途を辿るドン・カルロスの屋敷に現れたのは、土地一番の名門の跡取りである(そして軍曹とは奇妙な友人関係である)青年、ドン・ディエゴ・ベガ。ドン・カルロスの美しい一人娘・ロリータに求婚にやってきた彼は、しかし酒も喧嘩も女も苦手という朴念仁ぶりを発揮してロリータを怒らせてしまい、這う這うの体で退散するのでした。
 しかしその直後、何と快傑ゾロがドン・カルロス邸に現れ、その颯爽たる姿に心を奪われてしまうロリータ。そこにドン・カルロスの通報で駆けつけた総督の懐刀・ラモン大尉ですが、しかし彼もロリータに強く惹かれ、なんとしても我が物にせんと企むことに……


 と、圧政に苦しめられる人々のために、一人敢然と立ち向かう神出鬼没、覆面のヒーローの活躍を描く本作。正体不明の謎の剣士が破邪顕正の刃を振るうというのは、これは言うまでもなく古今東西を通じてのヒーロー像の一類型であり、本作が元祖というわけではないでしょう。しかしその中でも本作がユニークなのは、一つにはその舞台設定の妙があるかと想います。

 本作の舞台となる時代は18世紀末から19世紀初頭、場所はスペインが支配していた頃のカリフォルニア――イメージ的にスペインが舞台という印象がありますが、あくまでもスペイン語圏――ですが、ここで描かれるのは、フランチェスコ会による伝道開拓地が次々と作られ、それに次いでやって来た総督と麾下の軍隊・役人が幅を効かせている世界であります。
 そこにさらに作中では「紳士」(カバイエロ)と呼ばれるスペイン人地主たちの三者――というより物語の時点では修道会は既に力を失っており、総督側と「紳士」側が一種の協力とも緊張ともいうべき関係が、物語の背景にはあります。

 ゾロは当然ながらこの後者の側に立ち、やがて彼らのシンボル的存在ともなっていくのですが、勧善懲悪のストーリーであると同時に、自主独立の気風を謳い上げる物語である点が、人気の源の一つではないかと感じます。そしてその意味では、戦いを終わらせるのがゾロ個人の力デモはないのも、意味を感じるのです。

(もっとも、最初にこの土地に暮らしていた作中で言うところのインディアンは、フランチェスコ会の下で土地と財産、そして自由を奪われ、人口を激減させていたのですが)


 そしてもちろん、キャラクターの個性が本作の魅力であることは言うまでもありません。お尋ね者でありながらも颯爽として大胆不敵なゾロの好漢ぶりはもちろんのこと、彼とはある意味対象的なドン・ディエゴの(もはや死語ですが)草食男子ぶりも楽しい。
 一方ヒロインのロリータは、基本的に類型的ではあるものの、辱めを受けるくらいであれば自決するとナイフを擬して追手を退け、自ら馬を駆ってゾロの下に駆けつけるなど、情熱的な性格が、らしさを感じさせます。

 またゾロとは敵方で、言動は悪役ながら妙に憎めないゴンザレス軍曹、今は老齢ながら若い頃はさぞや荒武者であったろうと感じさせるフェリーペ師、老いてなお紳士たちのまとめ役として血気盛んなディエゴの父など、脇役も味がある配置で、飽きさせません。
(一方で悪役のラモン大尉と総督はちょっと没個性……)

 しかし一番印象に残るのは、やはりゾロの正体なのですが――これはもう、冒頭からほとんど明らかではあるものの、極端なまでの緩急の付け具合が楽しく、そして何よりもラストの正体を明かすシーンが実に痛快としか言いようがありません。
 やはり古典といえど今まで名を残す作品は違うわいと、大いに納得してしまうのです。


『快傑ゾロ』(ジョンストン・マッカレー 角川文庫) Amazon

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