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2022.08.27

風野真知雄『服部半蔵の犬 奇剣三社流 望月竜之進』 忍犬、名匠、そして愛!?

 同時に三人を相手にしても引けを取らないという三社流の達人にして、飄々と諸国を放浪する剣豪・望月竜之進が、何故か動物絡みの事件に巻き込まれる姿を描く連作シリーズの第二弾であります。

 既に天下泰平となった江戸時代前期を舞台に、諸国を放浪する望月竜之進の姿を描く本シリーズ。本書でも、以前刊行された『厄介引き受け人 望月竜之進 二天一流の猿』の収録作、「小説宝石」掲載作、そして書き下ろしがミックスされて収録されています。
 全五話の内容を以下に紹介します。

「番町皿屋敷のトカゲ」
 江戸で道場を開く竜之進に弟子入りした、さる小藩の用人の息子から、藩で鍋島公から送られた壺を誤って割ってしまい、頭を悩ませていると聞かされた竜之進。同じ頃、青山家では皿を割って手討ちにされた下女の幽霊が出没、そこにはある共通点が…

 タイトルの通り、あの番町皿屋敷の裏話である本作ですが、そこにさる竜之進の弟子の入門の理由と、トカゲに驚いてさる藩主の奥方が割ってしまった壺が絡んで、意外な方向に物語が転がっていきます。
 竜之進の悪党退治もさることながら、壺が割れた件の収め方が、何ともユニークかつ鮮やかで印象に残る一編です。


「淀殿の猫」
 大坂で出会った甘酒屋の女・茶々と良い仲になった竜之進。彼女を離縁した前の夫の家には、大坂の陣の折に、淀殿の猫が出てきたという抜け穴があったというのですが――それを教えてくれた男が何者かに殺され、前夫から竜之進は助けを求められることに……

 本シリーズには珍しく、艶っぽい内容の本作。大坂城の抜け道を巡る因縁や、かつての落ち武者狩りの連中がいまだにのさばっているという設定も面白いのですが、やはり印象に残るのは、竜之進と茶々の愛の行方でしょう。
 武芸者として放浪の人生を送りながらも、ふと一箇所に定住しての平凡な人生を夢見てしまう竜之進。その果てに迎える結末の何とも言えない複雑な後味は、これは作者ならではのものというべきものであります。


「服部半蔵の犬」
 福岡で右足に大怪我を負い、湯治中の竜之進は、かつて服部半蔵が飼っていたという噂の犬と、その犬と山で暮らす女と出会います。一方、竜之進と同じ時に湯治場に逗留する、曰く有りげな男の正体は……

 書き下ろしの表題作は、かつて服部半蔵が九州探索に来た折に飼っていたという犬を巡る奇妙な物語。いくらなんでも時代が離れ過ぎなのですが、その犬を飼っている女の奇妙な個性が絡んで、物語に不思議なムードを生みます。(にしても犬の名前が面白い……)
 そしてそこにさらに思わぬ悪党退治が絡むのですが――竜之進が松葉杖をついているためか、本作には珍しい複数対複数の決闘シーンが目を引きます。


「宇喜田秀家の鯛」
 秘剣の噂を知り、伊豆下田を訪れた竜之進。そこで彼は何かを探して鯛を釣る八丈島帰りの男と出会います。さらに男を追う代官所の者たちや、八丈島から来た「うきまさま」なる老人一行が現れ、血腥い争いが……

 ある意味本書の中で最もスケールが大きく、そして生々しいのが本作。タイトルの宇喜多秀家――八丈島に流されて余生を終えた武将が遺した「もの」を巡り、人々の醜い欲が絡み合う様は、そうしたものと無縁の竜之進の物語だからこそ、苦いものを残します。
 しかし思わず『幻の城』を思い出してしまう本作の設定ですが、さらにニヤリとさせられるような文章がサラリと……(発表時期的に、舞台版を意識したのでしょう)


「左甚五郎のガマ」
 栗橋の宿で、腕自慢の男相手に試合をすることになった竜之進。しかし直後に生まれて初めて風邪を引き、ダウンした彼に、同宿の小汚らしい老人がある企てを持ちかけます。翌日、三対一の決闘に臨む竜之進ですが……

 生まれて初めて風邪を引いたら滅茶苦茶重かったという、周囲にはおかしいが本人は大変な状況に、妙な老人が助太刀(?)する本作。決闘の行方も面白いのですが、実は本作のメインは、終盤に描かれる後日譚にあります。十年後の同じ場所を舞台に、何とも楽しい策で悪人を退治した竜之進が悟る真実とは――そこには不思議な説得力があります。
 ちなみに本作は、おそらくは最初に発表された望月竜之進もの。この時点で彼のすっとぼけた個性が確立しているのに感心します。


 現時点でもう一冊刊行されている『那須与一の馬』も、近日中にご紹介します。


『服部半蔵の犬 奇剣三社流 望月竜之進』(風野真知雄 光文社文庫) Amazon

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