青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第6巻 舞台は金へ 三人の微妙な関係の行方は
これまで金の皇女アイラの宋での恋と冒険を描いてきた本作も、この巻で舞台を大きく変えることとなります。新たな舞台は金――病気見舞いの使節として金を訪れることとなった康王ですが、その傍らには何故か白凛之が。はたして三人の微妙な関係の行方は……
金からの親善大使として宋を訪れ、花火職人の白凛之に一目惚れしたり(そして迷惑がられたり)、親の決めた「婚約者」である康王とともに宋朝廷内の権力争いに巻き込まれたりと、様々な活躍(?)を見せてきたアイラ。
しかし彼女の父である金国皇帝が倒れたという報に、彼女は帰国を余儀なくされることになります。もっとも、宋と金、遼が複雑な関係にある現状で、皇帝が倒れたなどとは明かせるはずもなく、祖母が倒れたと偽ったアイラ。しかしそこで康王が見舞いの使節として金に向かうことになって……
というわけで物語の舞台は金に移るのですが、しかし本来であればその流れに入れるはずがないのは白凛之であります。そもそも火薬を用いた新兵器を開発した彼は、実戦でその新兵器を用いるべく、対遼戦線に向かうはずだったのですが――そこで事態をややこしくさせたのが、あの童貫なのです。
宦官でありながら猛将として知られる童貫は、白凛之が忠誠を誓う皇太子とは敵対する立場。そこで利をチラつかせて白凛之を味方に引き入れようとする童貫ですが、白凛之がそれに応じるはずもなく……
と、ビジュアル的にはなかなか迫力あるのですが、やはり本作でも××野郎だった童貫。彼の腐りきった陰謀により窮地に陥った白凛之を救ったのは、何と康王で――と、アイラを挟んで何となく微妙な間柄であった二人が、ここに運命の悪戯で共に金に向かうことになります。
しかし宋の人間にとって、金はとてつもない異郷。そこで出会う様々なことに戸惑いながらも適応しようとする康王ですが、思いもよらぬ事実を知ることに……
というわけで、宋を訪れた金国人であったアイラの、ある意味カルチャーギャップを描く物語であった本作は、ここに至りその構図を逆転させ、今度は宋国人である康王の目から、金の姿が描かれることになります。
実際問題として宋に比べて金を描いた作品は少ないこともあり、我々読者にとっても馴染みの薄い地である金。そんなわけで本作で描かれるその金の姿には、驚かされたり感心したり――と、康王と同様の感慨を抱くことになるのが、なかなか楽しいところであります。
しかしそんな中でもやはり物語のアクセントとなるのは、やはり白凛之の存在でしょう。アイラと康王が婚約者の間柄であるとすれば、本来彼の入る余地はありませんし、そもそも金の皇女と宋の一技術者では、残念ながら身分の壁があります(あとお兄ちゃんがコワいですがそれはさておき)。
元々生真面目な白凛之にとっては、アイラの存在は迷惑の一言、敬遠すべき存在であったはずですが――しかし白凛之の真意の一端が、ここで初めて描かれることになります。決して明かすわけにはいかない真意が……
そして康王にとっても何となく気になる存在となってきたアイラですが、しかし金で知ったある事実が、彼の心をかき乱します。さらにアイラの父である金国皇帝も、思わぬ形で白凛之と縁が生まれて……
と、物語的にはちょっとアイラは後ろに下がって、康王と白凛之、二人の男性を中心に動いた感のあるこの巻の物語。この先、三人の関係性がどのように動いていくのかはわかりませんが、舞台の変化が、物語にも大きな変化を生んだことは間違いないでしょう。
そして舞台といえば、この巻のラストで描かれた――まことに申し訳ありませんが、ざまあみろ、と言いたくなるような――ある事態によって、さらに舞台が変わることになるかもしれません。
そしてそれが物語に、三人にどのように影響するのか? いよいよ先が見えない、それだけに楽しみな物語であります。
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