岡村星『テンタクル』第3巻 激突目前、それぞれの「志」
黒船来航と九州独立を巡る陰謀に巻き込まれた杖術使いの青年・津春を主人公とする時代漫画の第3巻であります。津春だけでなく、事件に関わるそれぞれがそれぞれの志を持って臨む中、ついに相容れぬ者たち同士の激突が……
福岡藩の側用人邸から奪われた刀を取り戻す討ち手に選ばれて任を果たしたものの、その刀に秘められた秘密を知ったことから、親友と恩師を喪うこととなった杖術使いの医学生・津春。
二人の仇を討つため、陰謀の解明と一味の打倒に燃える津春ですが、首謀者でありかつて刀を巡って津春と対峙した少女・周子は、前藩主の娘であるとともに皇族の血を引く存在でありました。
アメリカ船の来航が来年に迫ったとの情報が飛び交う中、九州の防備を諸藩に任せきり、何もしようとしない幕府に失望した諸藩による九州独立計画の盟主である周子。彼女に対して、大目付をはじめとする福岡藩の対応は……
と、いよいよ陰謀の形が見えてきたところで始まる第3巻の前半では、津春の物語から離れ、の過去が語られることになります。
離縁された皇族の姫の連れ子であり、その母が隠居した福岡藩の前藩主と結ばれたことで、その養女となった周子。その縁で二刀流の道場に通うことになった彼女は、そこで恐るべき天稟を示すことになります。
しかし彼女の通う道場は下士の子弟が通う道場であり、上士の子弟が通う道場との試合では、常に負けを強いられていたことが悲劇を招きます。
上士の子弟たちに絡まれた際に、彼らをあっさり叩きのめした周子。数年後、その時の遺恨と、周子の挑発がきっかけで、周子の道場の先輩・練造に真剣勝負を挑む上士の子弟三人。彼らを斬ってしまい、切腹を申し付けられながらも拒否して逃亡した練造に対し、周子は自分が討ち手に名乗りを上げ……
上で述べたとおり、敵方の中心人物であり、九州独立の盟主である周子。前藩主の娘であり、皇族の血を引くという彼女の「設定」はこれまで語られてきましたが、ここで初めて、彼女の過去が――それ以上に内面が描かれることとなります。
その生まれ故に、そしてその天才ともいうべき剣の腕故に、この時代、この場所において、ある意味例外的に自由な存在であった周子。しかし彼女の周囲の武士たちはそうではないことを、尊敬する練造の理不尽な運命を通じて、彼女は痛感したのであります。
そしてその後、アメリカ船の来航という歴史のうねりに触れたことで、その武士たちの盟主に祭り上げられた周子。しかし彼女の真意は……
仇討ちのために、周子たち一党の打倒を決意した津春。何とか一党の決起を抑え、穏便に収めようとする大目付。それだけでなく、何かと不穏な動きを見せる藩の隠密・寺内は、藩の存続のために周子の抹殺を狙い――と、味方の側だけでも様々な思惑が存在します。
本作はその思惑を「志」と呼びますが、はたして誰の志が正しいのか――簡単には答えの出ない状況であることは言うまでもありません。
しかし事態に猶予はありません。周子憎しの念から、大目付の意向に反しても寺内と行動を共にしようとする津春。しかし既にその動きを察知していた周子は――いよいよ志同士の激突は目前、クライマックスも間近ということでしょうか。
ちなみにこの巻の表紙を飾った、本作一の狂人キャラである十和――寺内の妻は、この巻では何と味方側として登場。寺内が津春と行動を共にしているのですから当然ではあるのですが、初登場時の狂いっぷりを見ると意外というか何というか……
(彼女と再会した時の、主人公にあるまじき津春のビビりっぷりもむべなるかな)
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