『ゴールデンカムイ』 第四十話「ボンボン」
14歳の頃、鹿児島で鶴見中尉と出会い、本気で自分を叱り、話を聞いてくれる彼に心を許した鯉登。そして2年後の函館で、海軍兵学校の受験を控えた16歳の鯉登は、何者かに誘拐されてしまう。対応のため鯉登邸に派遣されてきたこれが開戦間近のロシアによるものだと判断するが……
今回は一話丸々鯉登の過去編―― 単行本第20巻の第197-200話のアニメ化であります。今回だけ観るといきなり過去エピソードが始まりますが、第三期のラストで尾形から「バルチョーナク」という言葉をぶつけられた鯉登が、かつて同じ言葉をぶつけられた過去から、前回ラストにその意味を月島に確認し、その時のことを思い出し――という流れになります。
(アニメでエピソード順が入れ替わったのでこの辺ややこしい)
さて、今回の見所は、14歳・16歳の鯉登の声の演技(ラストに薩摩弁がワヤになるところも含めて――はもちろんですが、個人的にはまだまともだった(?)頃の鶴見中尉の颯爽たる姿と感じます。
父の期待に応えていない=要らない子供だと感じていた少年時代の鯉登にとって、腫れ物のように扱われていた「ボンボン」であった自分に正面から向き合い、一人の人間として接してくれたのですから、それがどれだけ嬉しかったことか。もうそれだけでノックアウト状態のところに、激しいバトルを繰り広げて誘拐された自分を(何故かノースリーブのステージ衣装で)助けに来てくれたわけで、もちろんこれも全ては鶴見劇場ではありますが、これは確かにインパクトは絶大であります。
そんな鯉登視点でなくとも、鯉登邸に現れるなりいかにも防諜のプロ的な指示を飛ばし、その後も的確な指示を連発。そして敵の追跡になれば、大ハッスルの鯉登父と一緒に三輪車での激しいチェイスを演じ――しかもそれが大塚芳忠ボイスで迫ってくるわけですから、そんな鶴見劇場を多感な少年が見せられたら、それは確かにその後の人生を左右されるというのも頷けます。
(あと、コーナリングの体重移動中の鶴見中尉にウィンクされたご婦人の安否も気遣われます)
しかし今回、全てのカラクリを知った後で――しかもアニメとして観た場合に強く印象に残るのは、誘拐犯たちの存在でした。鶴見がロシアかも言っているうちにいつの間にかロシアの人間(確かにロシア語も話していましたが)になっていたこの犯人たちの正体については言うまでもありませんが、声がついてみると、ほんの僅かな発声でも、改めて「中の人」の存在が感じられるのが面白い。
そして何よりも動きがついたことで「あっ、こういう描写があったか!」と驚かされたのは、電話で父から国のためにお前は助けないと言われた鯉登に対して、覆面の一人がそっと背に手を当てた場面であります。この覆面の正体はその後の「バルチョーナク」でわかるわけですが、何を思って鯉登の背中に触れたのか――見ようによっては慰めているようにもとれるその動きを見せた彼の心中を考えるだけで、たまらないものがあるではありませんか。
(しかしその直後にあんな風に頭突きを食らったら、そりゃあ「バルチョーナク」って銃を突きつけたくもなるのはわかります)
そしてこの場面で、すれ違っていた鯉登父子の想いが交錯し、そして結びつくという展開はやはり見事で、鯉登の過去編というだけでなく、本作において大きな要素となる親と子(父と子)の関係性を描く物語の一つとして、印象に残るものであったと思います。
何はともあれ、鶴見劇場の甘い嘘にまんまとハマり、鶴見シンパとなった鯉登父子。彼らの運命はこの先描かれるわけですが――しかしこの時のほんのわずかな一言のおかげで、鯉登が変わっていくきっかけとなったのも皮肉と言えば皮肉としかいいようがありません。今回のクライマックスの舞台が五稜郭であったのも含めて、運命というものの存在を感じてしまうエピソードでもあります。
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