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2022.10.11

有谷実『楊家将奇譚』第2巻 勢揃い七兄弟 そして鈴に迫る危機

 現代の女子高生・鈴がなんと『楊家将演義』を思わせる世界にタイムスリップ(?)して楊家将たちと出会うという異色の歴史ロマンの続巻であります。楊家の七兄弟全員と出会い、宋での生活にもすっかり馴染んだ鈴。しかしその周囲に遼の魔手が迫ります。

 孤独な高校生活を送っていたある日、雷に打たれて十世紀末の宋にタイムスリップ(あるいは転生)した女子高生・鳥羽鈴。いきなり宋と遼の戦いの中に投げ出された彼女は楊家の四男・四郎に助けられることになります。
 運命を左右するという仙女が現れるという予言が楊家にあったことから、鈴はその仙女ではないかと楊家に迎えられて……

 というわけで、東京開封府の楊家で過ごすこととなった鈴。仙女云々は抜きにして、人情に厚く、また侠気溢れる楊家の人々は、両親を早くに亡くして祖父の手一つで育てられた彼女にとって、早くも家族のような温もりを感じられる存在となった様子であります。
 さて、その楊家には七男二女がいるわけですが、第一巻の段階では五男二女までが登場。そして残る二人も、この巻の冒頭で登場することになります。

 その残る二人とは、三郎(延輝)と七郎(延嗣)――兄弟でも屈指の筋骨隆々たる体躯を持ちながらも、異常なまでに女性が苦手な三郎と、馬をこよなく愛し、馬と会話できると称する七郎。どちらも楊家の兄弟らしく(?)美形ですが、それぞれに個性派です。
 特に牧場育ちで馬に慣れている鈴にとって、七郎は馬トークができる貴重な相手。さっそく屋敷の厩に連れて行ってもらって――と、そこで官給の馬の状態が良くない(女真経由で馬が輸入できなくなっている)ことを鈴が知ることになるのは、この時代の情勢を側面から感じさせる、なかなかうまい展開だと思います。

 そしてそれだけでなく、その問題を解決するために鈴が現代の知識を活用しようとしたり(まだこの巻では成果は出ていませんが……)、現代から持ち込んだ弓の性能もあってか周囲も驚く遠矢の腕前を見せたりと、いかにも「転生もの」っぽい場面があるのも楽しいところであります。


 しかし彼女を、いや楊家を巡る状況は、決して楽しいばかりではありません。
 遼との戦いで並外れた武功を見せても、異国の降将であるために、宋の重臣たちからはよそ者扱いを受ける楊家(ここで楊家のフォローに入るのが、『楊家将演義』でもお馴染みの太宗の甥・八王(趙徳芳)なのが嬉しい)。一方、楊家を最大の敵と見定めた遼も、楊家軍の中に間者を送り込み、ついには鈴を誘拐するという挙に出ることになります。

 これに対して彼女を救うべく奔走するのは四郎。これまで何かと鈴には厳し目の対応だった四郎ですが、彼女の宋での初対面の相手であるなど、何かと縁のある人物であります。しかし彼とて無敵ではありません。鈴を庇いつつ、数に勝る敵との戦いの中で傷を負った四郎の運命や如何に!?

 と、いいところで終わるこの巻ですが、四郎たちの戦いと並行して、鈴の存在や遼の動きに関する様々な伏線が配されているのも気になるところであります。
 特に意識を失っていた鈴が夢(?)の中で呼ぶ名――あれは『楊家将演義』では大きな意味を持つものであるだけに、色々と想像を掻き立てるものがあります。その名を呼ぶ鈴の正体(前世?)は、そしてこちらも色々と曰くのあるらしい遼の簫太后との関わりは――と。

 もちろんそれはまだまだ想像の域を出ないものであります。はたしてこの物語が『楊家将演義』をなぞるのか、はたまた別のルートを行くことになるのか、楽しみにしたいと思います。


 ちなみにこの巻で勢揃いした楊家の七兄弟にはとんでもないサービスシーン(?)があるのですが、そのオチには吹き出しました。オイシいキャラだな、三郎……


『楊家将奇譚』第2巻(有谷実&井上実也 KADOKAWAフロースコミック) Amazon

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