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2022.11.09

松井優征『逃げ上手の若君』第8巻 時行初陣、信濃決戦!

 ついに鎌倉奪還に向け、決起した北条時行と諏訪頼重、諏訪神党――しかしその前に彼らは、諏訪を自分たちの手に取り戻さなくてはなりません。因縁重なる敵たちを相手に、時行が、頼重が、仲間たちが繰り広げる激闘の行方は……。ほとんどもうクライマックスのような盛り上がりの連続です。

 足利の諜報網をくぐり抜け、細心の注意を払い続けて決起の準備を続けてきた頼重と諏訪神党。京で楠木正成から兵法の極意を伝授され、そしてついに対面した足利尊氏にまったく及ばず逃走する――そんないくつもの得難い経験を重ねた時行と逃者党も帰還し、いよいよ彼らの決起の時が訪れます。
 しかし言うまでもなく、鎌倉奪還の前の最初の障害となるのは、信濃守護・小笠原貞宗と、信濃国守・清原信濃守。決して躓くことが許されない戦いが始まることに……

 というわけで、この巻全てを使って描かれるのは、時行+諏訪神党vs信濃国守・守護との全面対決。これまで様々な形で幾度となく激突してきた宿敵たちとの、最終決戦が描かれることになります。

 そしてその激突の始めに描かれるのは、元は凶悪な賊徒であり、今は武士として信濃の地頭となった瘴奸との決着戦です。
 瘴奸は、時行と諏訪神党にとっては初戦こそあと一歩で討つところまでいった相手でありつつも、二度目には戦場での的確な差配によって手痛い打撃を受けた相手。単純な武力のみならず、軍略においても優れたものを持つ瘴奸は、時行にとって、真っ先に潰しておくべき相手であります。

 とはいえ、当然ながら戦場において周到な動きを見せる瘴奸に対して、時行たちが一撃で痛打を浴びせることのできる方法などはたしてあるのか?
 ――と思ったら、あった! 普通であれば絶対に思いつかない、しかし滅茶苦茶諏訪っぽい(偏見)時行の兵法には、瘴奸ならずとも驚愕必至。いきなり冒頭から、とんでもないものを見せられてしまいました。

 しかしそれで瘴奸との戦いが終わったわけではありません。形勢不利と見て離脱せんとするのに追いすがってきた時行と吹雪に対して、瘴奸はその名を捨て、真の名乗りをあげて戦いを挑むことになります。
 外道ではなく一人の武士として、恐るべき力を発揮する瘴奸。以前の技は通じない強豪に対して、時行が用意した秘密兵器とは……

 初登場時は子供を平然と売り飛ばす外道中の外道として、いかにもやられ役的な姿を見せた瘴奸。しかし初戦を生き延びた彼は、物語の中で意外な顔を見せていくことになります。
 その一つが、楠木正成との関係ですが――この決戦を前に描かれる正成との回想は、わずか1ページながら、正成との関係性、瘴奸という名に込められているであろう想い、そして続く名乗りに続いていくこの巻でも屈指の名場面。まさかこのキャラが、ここまで味のある存在となるとは、予想することはできませんでした。何はともあれ、時行の初陣の相手に相応しい人物であったことは、間違いありません。


 さて、時行は幸先よく初戦を飾ったものの、この後登場するのは強豪揃い。しかし勢いづいた逃者党と諏訪神党は、それに屈するはずもありません。

 小笠原貞宗が得意の強弓に対し、これまでの面白変態予言者おじさんっぷりを微塵も感じさせない、まさに神がかった強さを見せる頼重。
 これまで影から諏訪を苦しめてきた尊氏配下の忍び・天狗に対しては、過去に因縁を持つ玄蕃と――誰? とにかく思いもよらぬ(真剣に存在を認識していなかった)キャラクターが意外過ぎる強さを見せて大活躍と、痛快な展開が続きます。

 そして尊氏に文字通りおかしなものを吹き込まれた清原信濃守が繰り出すオーパーツじみたビックリドッキリメカと、時行と諏訪神党の激突を経て、この信濃での戦いは終結することになります。


 しかし、この巻の真のクライマックスは、ある意味これから。ひとまずの目的を果たした諏訪神党の前に、そして生き残った者たちの前に立った時行が口にするのは――それはこの巻のサブタイトルを見れば明らかでしょう。
 ついに秘め隠してきたその存在を明かした時行。その衝撃がいかにして天下を席巻するのか――それは次巻のお楽しみであります。


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