十束椿『兎角ノ兄弟』第4巻 大団円 空蝉の真意と兄弟が得たもの
幼い頃、奇術師・空蝉によって子供の姿のまま不老不死になってしまった兄・志月と、兄を助けるべく奮闘する弟・千兼が、江戸の怪事件を追う時代アクションの最終巻であります。ついに空蝉のもとにたどり着いた二人ですが、空蝉は意外な姿に――はたして真実の行方は如何に?
幼い頃、四条河原の見世物小屋で不死身の芸を見せる空蝉に対し、無邪気に不老不死を願った千兼を庇ったことで、その力を分け与えられてしまった志月。以来、千兼のみが成長していく中で、曲芸奇術師・兎角奇団として旅を続けた二人は、空蝉を追ううちに次々と怪奇な事件に出会うことになります。
そんな中、ある目的のために次々と凶行を引き起こす者たちと遭遇した兄弟。そして彼らの正体こそは、空蝉の信奉者=空蝉一座の座員たちだったのです。
こうしてついに事の発端であった空蝉の存在についにたどり着いた兄弟ですが、しかし空蝉に近づくまでに彼らの前に立ちふさがるのは、現在残った者だけでも五人――いずれも一癖も二癖もありそうな、そして曰くありげな座員たちであります。
しかし驚くべきことに、実は彼らが信奉する空蝉は、既に意識を失った状態――しかも、心臓から無数の茨のようなものを周囲に放ち、磔のような異様な姿に変貌していたのです。
さらに座員たちの前に現れた謎の三度笠の男・十月は、己が持つと称する千里眼の力で空蝉を甦らせる方法を知ったと嘯き、座員たちを掌中に収めるのですが……
というわけで、ついに決戦の刻を迎えるに至った物語。自分たちが普通の人間に戻るために兄弟が奮起するのは当然ですが、しかしそれに対する座員たちにも、それぞれに退けぬ理由、空蝉を慕う理由があることが、ここに至り示されることになります。
かくて兄弟と座員とが、空蝉を間に挟んで激突する構図となるのですが――そこに第三勢力ともいうべき十月が登場することで、物語に更なる不確定要素が加わるのは、ちょっと面白いところでしょう。
正直なところ、志月の存在を考えれば、空蝉の昏睡の理由は予想がつきます。しかしそこに兄弟とも座員たちとも異なる目的を持つこの十月が絡むことによって、最後まで物語に一定の緊張感が生まれたといえます。
そして迎えた結末は――個人的には、怪奇は存在しないという結論にして欲しかったところではありますが、さすがに不死身・不老不死の肉体がある以上、それは難しいのはやむを得ないことなのかもしれません。
(しかし、ラストバトルで勝負を決めたのが、超常の力ではなく――というのは、それはそれである種の怪奇否定というべきか)
しかし空蝉が求めて得られなかったものを――改めて第一巻を読み直してみると、なるほど千兼のこの言葉が、とちょっとゾクリとさせられるものが――兄弟が最後に手にしたというのは、これはこれで一つのハッピーエンドというべきとも感じます。
何よりも、ラストの二人の姿を見れば、そう評するべきなのでしょう。『兎角ノ兄弟』、まずは大団円であります。
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