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2022.11.26

藤田和日郎『黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ』第2巻 あの夜、彼女が夢見た「人間創造」

 英国内で起きた事件の証拠物品を収蔵する黒博物館――その収蔵品にまつわる奇譚を描くシリーズ第三弾の続巻であります。亡夫の父の命で、悪名高い寄宿学校に潜入したメアリーが見たものとは……。そしてこの巻では文学史上名高い、あの夜の様も描かれることになります。

 黒博物館に収蔵された由来不明の赤い靴――ヴィクトリア女王が開催した舞踏会で起きたある事件の現場に残されていたというその靴の由来を、キュレーターに語り始めたメアリー・シェリー。それは、かの『フランケンシュタイン』の作者である彼女が、何と現実に死から蘇った――それも女性の「怪物」と出会った過去にまつわるものだったのであります。
 亡夫の実家で「エルシィ」と名付けた彼女を、淑女として教育することになったメアリー。そんな中、彼女は義父に呼び出され……

 という場面から始まるこの第二巻。ここでメアリーは、見るからに強権的な義父から、息子を相続人として認める条件(の一つ)として、とある寄宿学校の調査を命じられることになります。
 極めて劣悪な環境で子供たちを虐待している疑いがかけられているその学校に、教師として潜入したメアリー。聞きしに勝るその状況に憤りを隠せない彼女ですが、校長の凶悪な三人の息子の暴力により、最悪の状況に……

 これまでメアリー自身を含めて、この時代の女性が置かれた抑圧的な環境を、諸所で描いてきた本作。このエピソードでは、その一つが、よりメアリーに対して直接的に――心身の危険という形で迫ることになります。
 もちろん、メアリーの絶体絶命の危機に、エルシィが駆け付けて――というのは、これはもう当然の展開なのですが、しかし正直なことをいえば、暴力的な男たちの前でメアリーの道理が通じず、エルシィが彼女に代わって相手を叩きのめすという展開は、第一巻にもあるわけで、既視感は否めません。

 もっともこの場面においては、校長にして男たちの母親――この世で女が生きるためには、結婚して男の言うことにただ服従して生きろと生徒たちに叩き込む女性との対決が、クライマックスというべきかもしれません。
 が、ここでもメアリーは相手の「正論」に押されて有効な反論をすることができず、エルシィのストレートな言葉に救われるという展開となるのは、正直なところスッキリしない展開ではあります。

 もちろんこれもこの先のカタルシスへの溜めなのだとは思いますが――まだ物語がどこに向かうのか見えない中で、ストレスが溜まる展開が続くのは、少々厳しいものがあるように感じます。


 さてこの寄宿学校のエピソードはこの巻の半分ほどで、次に語られるのは、「ディオダティ荘の夜」――バイロン卿の別荘・ディオダティ荘に集ったポリドリ、バイロン、そしてメアリー(とその夫)が、無聊の徒然に怪奇談義を交わした夜であります。
 そしてそこからポリドリの(バイロンとのある種の合作である)「吸血鬼」が、何よりもメアリーの「フランケンシュタインの怪物」が生まれたと言われる伝説の夜ですが、本作はそれをまた異なる視点で描くことになります。
(ちなみにここでのバイロンの造形が、どこか『スプリンガルド』のウォルターを思わせる、などと思っていたら……)

 抑圧的だった実家の環境から飛び出し、当代一流の男性たちの傍らで、文化的・芸術的な世界(それがどれほどこの時代の一般的な女性にとって縁遠いものであったかはここまで縷縷述べられてきたわけですが)への憧れに胸ときめかす十代のメアリー。
 その姿は、切実であると同時に、非常に微笑ましいものがありますが――そんな中での各自が怪談を描くというバイロンの提案が、彼女にとっては、この「男性」たちと並ぶ存在になることを、いわば自分が人間であることを証明することを意味していたという視点には、大いに頷かされるものがあります。

 そしてその「人間創造」の企てこそが、彼女の中の「怪物」を形として解き放つものだった、という皮肉にもまた……


 そしてまた物語は視点を変え、この巻の終盤では、彼女の息子・パーシーの姿が描かれることになります。思わぬ(本当に思わぬ!)ゲストの登場を通じて描かれる彼の好漢ぶりもさることながら、メアリーの言によればこの「物語」の(おそらくは重要な)登場人物である彼が、どのような役割を果たすのか――それは「物語」がどこに向かうのかとも直結するのでしょう。

 正直なところ、この第二巻ではそれが見えなくなってきた印象もあるため、今後の展開に期待したいと思います。


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