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2022.11.08

竹良実『辺獄のシュヴェスタ』第4-5巻 人間の意思を貫かんとする者と、神の名の下に奪わんとする者と

 16世紀のドイツを舞台に、親を魔女として処刑された少女たちが非道の修道院を舞台に繰り広げる復讐とサバイバルの物語もいよいよ佳境。冬を越えるために懸命に努力を続けるエラと四人の仲間たちに次々と襲いかかる試練――そしてついに明らかとなる修道会の真の企てとは……

 治療師だった育ての母を魔女として処刑され、ドナウ川とライン川の分水嶺に建つクラウストルム修道院に収容された少女・エラ。修道会の総長・エーデルガルトに復讐することを心に誓ったエラは、やがて強い向上心を持つカーヤ、おっとりしたヒルデ、毒舌家のテアという仲間を得て、激しい虐待が横行する修道院で生き抜くべく、静かな戦いを繰り広げることになります。
 そして二位生の監督生であり、昨年から密かに修道院の中でサバイバルを続けてきたコルドゥラを仲間に加え、さらに生き抜く決意を強くするエラたち。しかしその頃、エーデルガルトと修道会はヴァチカンでその勢力を広げ始め……

 そんな前半の展開を受けて、全6巻のクライマックスに向けていよいよ動き出す第4巻・第5巻。洗脳薬が含まれた修道会の食事を口にせず暮らすため、密かに敷地内の古井戸の底に集い、食料集めを続けてきたエラたちですが、そこにコルドゥラの口から冷然たる事実が突きつけられることになります。
 かつてはエラたち同様、五人の仲間たちとサバイバルを続けていた昨年のコルドゥラ。しかし厳しい冬の環境に備蓄した食料は底を尽いた末、ある者は衰弱死、ある者は自殺、ある者は洗脳食を口にした末に口封じで殺され――彼女を除いて皆悲惨な最期を遂げたというのです。

 この冬を越えるためには、誰か一人が抜けなければならない――その事実を前に、エラは意外な行動に出るのですが……


 虐待や密告、洗脳や処刑が横行する修道院で日夜過酷なサバイバルを繰り広げるエラ。物語前半から描かれてきた彼女たち最大の敵は、食料不足であったといえます。洗脳薬が含まれた修道院の食事を口にせず、如何に生き延びるか――それは人間の最も根源的な活動の一つである食にまつわるものだけに、よりシビアに、そしてよりリアルに響きます。
 そして今回改めてコルドゥラの口から語られる一年前の真実により、その過酷さは改めて浮き彫りになるのですが――それでもなお、歩みを止めずに抗うエラと、彼女と共に歩み、支える仲間たちの姿は、これまで以上に力強い成長を感じさせるのです。

 そして試練を乗り越えた一時の安らぎの中、仲間として触れ合う中で語られるそれぞれの家族の物語。エラとカーヤの親についてはこれまで語られていましたが、印刷所の娘のヒルダ、貴族の娘であったコルドゥラ、小作人の娘のテア――ここで語られるそれぞれの家庭と、親の存在は、彼女たちが魔女でも神でもなく、「人間」の子であることを示すものといえるでしょう。
 そして自分自身の「意思」を持つ人間だからこそ、様々な困難を乗り越え、前に進むことができる――そんな本作のテーゼは、第4巻のラストで襲いかかる最大級の逆境を前に、なおも屈せず強い言葉を残すエラの壮絶なまでの姿に明確に象徴されているのです。

 そんな苦闘の果てに冬を乗り越え、一年進級することとなったエラたち。それは同時に――特に卒業式でエーデルガルトから指輪を得られる五人を目指すエラにとっては――修道院での役目を与えられる、言い換えれば修道院というシステムに組み込まれることを意味します。
 そんな中、監督生ではなく「庭師の鋏」、すなわち処刑人を打診されることになるエラ。しかし悩みつつも、処刑という最も厳然たる行為において己の意思を貫くために、あえて苦難の道を歩もうとする彼女の姿には、むしろ尊さすら感じるのであります。


 しかしその間にも事態は大きく動いていきます。ヴァチカンに食い込み、教皇庁からキリスト教世界の叡智を集めた教皇庁図書館の全面的な閲覧権を得たエーデルガルトの真意――それは自分たちの手に知識を一手に集め、その結果のみを神の恩寵として人々に与えることによって、神の畏れによって人間を従えるという企てだったのであります。

 異端の学者や、修道院の中でその異能を目覚めさせた「見渡す者」たちを使い、エーデルガルトが進める悪魔の計画――途方もない大きな犠牲を払った末にその存在を知ることとなったエラと仲間たちは、その阻止に動き始めるのですが、しかし更なるトラブルが発生し……

 人間の意思を貫かんとする者と、神の名の下にそれを奪わんとする者と――その両者の対決の結末は、最終巻である次巻で描かれることになります。それはまた近日中にご紹介しましょう。


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