久賀理世『奇譚蒐集家 小泉八雲 終わりなき夜に』 怪奇のWhyとWhoの先の青春像
英国ものの名手である作者が、パトリック・ハーン――少年時代の小泉八雲を主人公に描くシリーズ待望の続巻であります。北イングランドの神学校で日々を送るパトリックと相棒のオーランドの周囲で起きる奇怪な事件の数々。その謎を追う二人が見た真実とは……
貴族の私生児であったことから、厄介払いのため北イングランドの神学校に放り込まれた「おれ」ことオーランド。そこでこの世ならぬ世界に触れる力を持ち、奇譚を収集する少年パトリック・ハーンと知り合い、行動を共にすることになったオーランドは、様々な怪異と出会い、解決に奔走することに……
という本シリーズも講談社タイガで刊行された二巻、そして講談社文庫に移行しての前作そして本作と、通算四巻目になりました。前作は長編でしたが、本作は全四話構成の短篇連作スタイルとなっています。
同級生のクレイグから受けた、いつの間にか教室の生徒が一人増えているという相談が、クレイグ自身にまつわる事情に絡んでいく「そこにいるもの」
焼却するよう遺言されたものを弁護士が貰い受けたドールハウスから人形の一つが消え、オーランドの元に現れたことをきっかけに、オーランドそして同級生のシリルが怪異に見舞われる「終わりなき夜に」
パトリックとオーランド、クレイグ、シリルが無聊を慰めるためにそれぞれ一話ずつ怪談を語る「四重奏には用心を」
腹違いの次兄・ヴィンセントから、友人が悪霊に憑かれたと相談を受けたオーランドが、パトリックとともに意外な真相を知る「愛しきものに捧ぐ」
これまでも英国の文化風俗を織り込んだ物語を発表してきた作者ですが、19世紀後半を舞台とした本作も、この時代にならではの風物を巧みに用いると同時に、どこか英国の古典怪談を思わせる独特の格調を漂わせています(特に「四重奏には用心を」は、気のおけない友人同士が冬の夜に語る怪談話というシチュエーションからしてたまりません)。
物語に触れている間、北イングランドの寒々とした景色を、目の当たりにしているかのように感じさせてくれるのは、ひとえに作者の筆の巧みさによるものでしょう。
しかし本作の巧みな点は、直球の怪異譚を描くというよりも、そこに様々な謎の存在を配置し、一種のミステリとして成立させていることでしょう。
何故その怪異が現れたのか? 怪異の正体は何者なのか? 怪異譚のホワイダニット、フーダニットとでもいうべき謎に、主役コンビが挑み、結果としてそれが怪異を鎮め、祓うこととなる――これまでのシリーズでも共通する構造は、本作でも健在であります。
そしてこれもまた、シリーズ共通の要素ですが、一種の青春小説としての味わいも、本作はこれまで以上に感じさせてくれます。
母の死をきっかけにこれまでの生活全てが一変し、音楽で身を立てたいという将来の夢も奪われて、神学校に押し込められたオーランド。そんな彼の鬱屈は、やはり複雑な家庭環境を持ち、そして一見それにも負けず己の道を行くパトリックという友人が出来たことで、和らいでいるようにも感じられたのですが――しかし決してなくなったわけではないことが、本作では随所で描かれます。
パトリック以外の級友との距離感、自分から将来を奪った者たちの一人(に見える)腹違いの次兄の登場といった出来事の一つ一つに悩まされるオーランド。周囲の人々との間にある(自分で作った)見えない壁、自分の将来への諦念に似た悩み――それはオーランド自身のものであると同時に、我々も覚えがあるような青春の苦しみであるだけに、ビビットに伝わってくるものがあります。
しかしそんな想いは、時に怪異をも招くことになります。本作の表題作である「終わりなき夜に」は、ドールハウスから消えた一体の人形が、何故かオーランドの楽器ケースに入り込んでいたことから始まる怪異譚ですが――無関係なはずの人形が、何故彼に近づいてきたのか。そして人形は何者なのか。
その謎を解いた時、それがオーランドにとって決して他人事ではないことが明らかになるのであり――だからこそ彼だから救える、彼でなければ救えないものとして、強い感動を生み出すのです。
そしてそれは同時に、彼にもまた、手を差し伸べる誰かの存在があることを意味します。そう、パトリックのように……
英国怪談にしてミステリ、そして青春小説――この三つの味わいが複雑に、そして密接に絡み合って成立している本シリーズの、本作の味わいは、唯一無二のものというべきでしょう。本作の結末ではある異変が描かれますが、その影響も含めて、この先の物語も楽しみです。
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