有田くもい『あやし神解き縁起』 土地神道真と見習い陰陽師の親子の絆
菅原道真といえば、死後は怨霊になったり天神になったと伝えられることもあって、平安ファンタジーではかなりの頻度で登場する人物であります。しかし本作は極度に子煩悩の天神・道真と、彼に育てられた半鬼の陰陽師見習いの少年が活躍する、第7回角川文庫キャラクター小説大賞・奨励賞受賞作であります。
太宰府で亡くなった直後、女神・瀬織津姫の命によって太宰府周辺を担当する土地神となった菅原道真。神として忙しい日々を送る道真は、故あって人と鬼の間に生まれた半鬼の赤子を育てることとなります。
人や神には有害な瘴気を持つ半鬼の赤子のワンオペ育児に道真が悪戦苦闘して十数年――その赤子は檜垣行夜という名で立派に成長し、道真の方はといえば、完璧に親バカで行夜にデレデレ状態になっていたのであります。
養父の力になるために陰陽師を志し、京の陰陽寮に入った行夜と、彼を心配するあまり、人に化けてついてきた道真。かの大陰陽師・安倍晴明の息子たちである吉平と吉昌兄弟に何かと振り回されながらも、陰陽師として少しずつ成長していく行夜ですが、道真が自分に隠れて不審な動きをしているのに気づくことに……
優れた学者にして政治家として宇多天皇に重用され、右大臣にまで上り詰めながらも、藤原時平によって謀反の罪に問われ、大宰府に左遷され、無念の死を遂げた道真。
その魂は死後怨霊となって、時平をはじめとして自分を陥れた者たちに祟ったり清涼殿に雷を落としたりしたことで恐れられ末
、天満大自在天神として祀られて今では学問の神として崇められる――死後もそんな波乱の人生(?)を歩んだ人物であります。
しかし本作の道真は、息子にくっついて上京し、堂々と本名を名乗って(周囲もまさかかの菅公その人だとは思わないのが愉快)陰陽寮に出入りする、なんとも人を食った、そして陽性の人物――いや神様として描かれているのに驚かされます。
それもそのはずというべきか、本作の道真は怨霊になっておらず、もちろん時平たちに祟ってもいないという設定。祟りについては、ある意味死後も冤罪をかけられたようなものですが――なにはともあれ、伝説に残る姿と、本作の行夜にデレデレの姿とのギャップの面白さは、本作の魅力の一つであることは間違いありません。
しかし本作の主人公は、あくまでも行夜であります。
曰く付きの力と生まれの見習い陰陽師が、安倍晴明の息子たちに振り回されつつも奮闘する、という設定は何となく既視感がありますが――本作の場合、養父の道真の過干渉を疎ましく思いつつも、しかし血よりも濃い絆で結ばれた「親子」として暮らし、それが物語を引っ張っていくという構造が、本作の大きな独自性として生きています。
(その一方で実の両親ともそれなりに繋がりがあるのが、奇妙にリアリティを感じるところでもあります)
正直なところ、物語の前半では行夜はまだまだ未熟なところが目立ち、むしろ道真の方が主役らしく見えるのですが――しかしそんな経験を踏まえて、未熟な自分を乗り越え、成長しようとする行夜の姿は、好もしく感じられます。
そしてその真っ直ぐさが、終盤、ある意味自分と表裏一体の存在との対決において、際立つという――ここに来て一気に「人間的」弱さを見せるという、これまた妙にリアルな道真の存在もあって――構成も、なかなかに読ませるところであります。
物語としては綺麗に一区切りがついているところではありますが――脇を固める安倍晴明親子のキャラクターも楽しく――まだまだこの先を描ける、描いてほしい作品であります。
『あやし神解き縁起』(有田くもい 角川文庫) Amazon
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