« 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第18章の5「むつとの別れ・上 八卦置き」 第18章の6「むつとの別れ・下 宇曾利山」 | トップページ | 西公平『九国のジュウシ』 恐るべき野生児が見た岩屋城の戦い »

2022.12.20

さいとうちほ『輝夜伝』第11巻 愛の炎燃え上がる親世代!?

 謎また謎の天女伝『輝夜伝』第11巻は、自らの娘・月詠を操るかのような母天女・艶の恐ろしくも美しい姿を描いた表紙が印象的な一冊。内容の方も、周囲を振り回す天女の本領を(さらに)発揮という印象ですが、さてその艶様の過去には何があったのか――様々な謎が解き明かされる巻です。

 月詠の母の形見だという数珠に宿り、そしてしばしば月詠自身に取り憑いて出現するようになった母天女。己の身を使って周囲の男たちを誘惑せんとする母にほとほと手を焼く月詠ですが、ついにその身が治天のものになろうとした時、現れた母天女の姿に治天は涙を浮かべたではありませんか。
 そう、月詠の母こそは、遠い昔に治天と愛し合った天女・艶その人。そして月詠の父は治天だと告げる艶ですが――しかし月詠が生まれたのはわずか十年前(!)。治天のこれまでを考えれば、およそ平仄が合いません。

 かくて治天の命を受け、月詠の出生の秘密と艶復活の謎を探ることとなった竹速、大神、滝口の長が知った、あまりに意外な真実とは……


 月詠の母が復活(?)してから意表を突いた展開が続く本作ですが、ここに来てついに描かれるのは、月詠出生の秘密。治天がかつて愛し、今なおその面影を求めるのが月詠の母・艶というのは、まず予想通りではありましたが(しかし知らぬとはいえ娘に手を出そうとした治天……)、しかしだとしても治天と艶の愛は、数十年は昔の出来事のはずであります。
 それがわずか十年前――完全に忘れていましたが、「血の十五夜」が月詠が生まれて五年後、そして現在はそこからさらに五年後という設定でした――に生まれた月詠の両親というのは、いくらなんでも矛盾があると、誰でも気付きます。

 それを解決する答えは――これが何と、その矛盾だけでなく、月に帰ったはずの艶が何故まだ地上にいるのか、そしてこれまで何処にいたのかも同時に答えるものであったのには驚かされます。そしてそれが、「血の十五夜」の真実にも繋がるものであると知ればなおさらに。
 もちろんこの辺りは物語の核心、骨格であるだけに、当初から用意されていた答えだとは思いますが――謎めいていた物語の全景が、一ピースが嵌っただけで大きく見えてくるその様は、感動的ですらあります。

 そして最初は完璧に治天のことを忘れ「年寄りはいやじゃ」「若い男子がいい」と、さすがの治天も可哀想になるようなことを言っていた艶も、さすがに事ここに至れば彼のことを思い出し、感動の再会となるわけですが――しかし忘れてはいけないのは、彼女はまだ肉体を失った状態であるという事実(月詠に嫌がられたため、何故か火麻呂に宿ることになったのがオカシイ)。

 それではその肉体は――と思えば、これが意外とあっさり見つかったものの、どうやらまだ一波乱ありそうな様子であります。はたして艶様の完全復活は成し遂げられるのか、治天との間に再び愛の炎は燃え盛るのか……


 と、完全に子供たちを食ってしまった感のある親世代ですが、子供は子供で悩ましい状況。猛烈に複雑な出生とはいえ、月詠にも天女の血が流れる以上、彼女もそのままではやがて月に帰る運命にあります。
 それに抗う手段は今の所ただ一つ、死から甦ったことで色々と復活したらしい竹速も、それに大変乗り気で、さあついに――と思いきや、運命はまだまだ二人の間に大きな試練を用意しているようです。

 親世代のみならず、子世代の運命は……

 と言いたいところですが、正直なところ子世代の方にあまり感情移入できないのは、「相手は実年齢十歳の、自分の妹として育ててきた子なんだけど、竹速……」という身も蓋もないことを考えてしまうためであります。
 この辺り、個人的には大神の方を応援してきたこともありますが、ちょっと、いやだいぶ複雑な感じであります。
(いや本当に個人的な感想ですが……)


『輝夜伝』第11巻(さいとうちほ 小学館フラワーコミックスアルファ) Amazon

関連記事
さいとうちほ『輝夜伝』第1巻 ケレン味と意外性に満ちた竹取物語異聞
さいとうちほ『輝夜伝』第2巻 月詠とかぐや、二人の少女の意思のゆくえ
さいとうちほ『輝夜伝』第3巻 自分の未来は自分から掴みに行く天女「たち」
さいとうちほ『輝夜伝』第4巻 二人天女、二人かぐや姫の冒険!?
さいとうちほ『輝夜伝』第5巻 月詠の婚儀と血の十五夜の真実
さいとうちほ『輝夜伝』第6巻 運命に翻弄される天女たちと想いに翻弄される男たち
さいとうちほ『輝夜伝』第7巻 最後の謎!? 天女が地上に残るためには
さいとうちほ『輝夜伝』第8巻 地上に残る天女!? 天女を巡る男たちの奮闘
さいとうちほ『輝夜伝』第9巻 すれ違う想い 月詠の想い・男たちの想い
さいとうちほ『輝夜伝』第10巻 深まる謎 天女たちの「糸」と「母」

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

« 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第18章の5「むつとの別れ・上 八卦置き」 第18章の6「むつとの別れ・下 宇曾利山」 | トップページ | 西公平『九国のジュウシ』 恐るべき野生児が見た岩屋城の戦い »