平谷美樹『貸し物屋お庸謎解き帖 百鬼夜行の宵』 賑やかな味わいの中の少女の限界と成長
だいわ文庫で帰ってきた貸し物屋お庸の第二作、通算第六作の登場です。「無いものはない」が謳い文句の貸し物屋(レンタルショップ)湊屋の両国出店を預かる、口は悪いがおせっかいで情に厚いお庸が今日も様々な事件に挑む連作短篇集であります。
かつて両親を賊に殺され、自分も背中に深手を負わされたお庸。その仇討の手を江戸有数の貸し物屋・湊屋の主人・清五郎に「借り」たお庸は、その代金を働いて返すため
手代の松之助とともに湊屋の両国出店を任されることになります。
以来、清五郎や店の人々、そして幼い頃に亡くなった姉の霊に見守られながらも、バイタリティと情の厚さ全開でお庸は大奮闘。基本的には依頼を受ければ何でも貸し出すものの、それが悪事や胡乱なことに使われては堪らない――と下調べや追跡を行う中で知った様々な事情を丸く収めるため、今日もお庸は奔走するのであります。
そんな基本設定で、レーベルを移しながらも展開してきた本シリーズですが、本書においてもこれまで同様のスタイルで、全六話が収録されています。
正月に凧の骨だけを貸してほしいという少年の依頼の裏にあった切ない願いを描く「凧、凧揚がれ」
縁起がいいという貸家の仲介を依頼されて下見にでかけたお庸が、思いもよらぬ恐怖体験をする羽目になる「貸家と散り桜」
余興に僧の衣装を借りたいという男たちの依頼がとんでもない方向に展開、大混乱を収めるためにお庸が奔走する「百鬼夜行の宵」
やりたい放題で町の人々を苦しめてきた大店のドラ息子たちが、お庸への復讐のために仕掛けた罠の顛末「貸し物卒塔婆」
富士講で急に必要になったと十人分の布団を借りていった男・信輔の依頼の真相を知り、お庸が迷う「信輔と十人」
以前からお庸に目をつけていた神坂家からの花嫁衣装の貸し出しの依頼の裏をかくべく、お庸と仲間たちが挑む「雪と綿帽子」
どれも作者らしいミステリ味と人情、そしてキャラの面白さに、時に怪談味まで入って、賑やかな味わいの一冊であります。
(お庸の姉の設定からもわかるように、同じだいわ文庫の『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末』と異なり、怪異が前面に出てくるエピソードも少なくないのが、本作の特徴と言えるでしょう)
少々驚かされるのは全六話という分量で、だいたい文庫書き下ろし時代小説のパターンとしては全四話が相場のところ、六話では各話の内容が薄くなったりするのでは――と余計な心配をしてしまいましたが、それは全くの杞憂。これはシリーズの基本設定を踏まえて、省略すべきところは省略し、膨らませるべきところは膨らませる物語描写の巧みさによるものでしょう。
そんな本書においてはどのエピソードも面白いのですが、個人的に強く印象に残ったのは、「信輔と十人」であります。
貸し物の背後に、依頼人の説明とは異なる裏の事情が――というのは本シリーズでは定番の展開ではありますが、しかし本作の場合、それがある程度早い段階で描かれる(読者には明示されないけれども、お庸や清五郎は気付く)のが、本作のユニークな点。
ではそれ以降の物語で描かれるのは、といえば、それはお庸の迷いと悩み――基本的に貸し物絡みで人の悩みや問題を知れば、時に商売そっちのけで力も貸すのがお庸という少女ですが、しかし本作では簡単にそうできないという事情があります。
それでも手を貸すべきか、貸すことができるのか。手を貸せないとすればどうすれば良いのか――「無いものはない」貸し物屋でも貸せないものを描く本作は、しかしお庸の敗北などではなく、彼女が己の限界を知り、他者の想いを慮ることを学んでいることを描く物語として、重要な意味を持つと感じます。
(その一つ前の「貸し物卒塔婆」でも、ある意味お庸の限界は描かれるのですが、本作はそれを自覚する点でより重い内容といえます)
そしてその姿は、恬淡と己の為すべきことを為そうとする姿が印象的な、ゲストキャラの信輔と表裏一体と言えるかもしれません。
さて、ラストの「雪と綿帽子」では、何やらお庸に含むところがあるらしく、以前からちょっかいをかけてきていた神坂家が登場。その企みを(最初は悩み恥じらいながらも)砕くお庸の姿も痛快ですが、やはり物語
はこのままでは済まない印象があります。
清五郎が言うように、大体の事情はこちらも何となく予想はつくのですが、いずれにせよこの先の展開も楽しみにしたいと思います。
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