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2022.12.16

糸なつみ『君は謎解きのマシェリ』 事件の先の生きづらさに挑む凸凹コンビ

 昭和初期の銀座を舞台に、日本初の女性探偵とイケメン御曹司のコンビが、様々な生きづらさを抱える人々を救う連作シリーズであります。今も昔も変わらぬ人々の悩みを前に、凸凹コンビの活躍は……

 銀座の探偵事務所で、日本初の女性探偵として働く星野美津子。何かと色眼鏡で見られ、理不尽な批判すらぶつけられながらも日々奮闘してきた美津子は、ある日行きつけの喫茶店の店員・朔から、調査の依頼を受けることになります。
 大雨の日、店の入口に片方だけ落ちていた、ダイヤの飾りの付いた女性ものの靴の持ち主を探してほしい――その依頼を引き受けてすぐ、プレゼント用に買ったその靴を落としたという男性が現れたものの、不審を覚えた美津子。彼女は、なりゆきから行動を共にすることになった朔を連れ、真相を追うことに……

 本作はこの「ガラスの靴」を皮切りに、探偵である美津子と、助手兼ボディーガードを買って出た朔の凸凹コンビが、事件に挑む姿が描かれることになります。
 同じなのになぜか落款が異なる二枚の絵のオリジナル探し、ライバルが自殺したトップ女優のボディーガード、天才少年をリーダーとした電話詐欺集団の追跡、結婚を目前とした令嬢の初恋の人探し――明らかな犯罪から市井の奇妙な出来事まで(基本的は後者がほとんどですが)、探偵社に寄せられる依頼は様々。当然ながら、その依頼にまつわる人間模様も様々であります。

 そしてそこに(程度の差こそあれ)共通するのは「生きづらさ」――そう、本作で描かれる事件の根底にあるのは、老若男女を問わず、人が生きる上で抱える悩みや苦しみ。美津子と朔は、表面的な事件の依頼を解決するだけでなく、その根底にある生きづらさを解決する、理解する――本作で描かれるのは、そんな物語なのです。


 もちろん、生きづらさを抱えるのは、事件の依頼者・関係者だけではありません。その事件に挑む美津子自身、探偵というただでさえ難しい仕事に従事する上に、先に触れたように、女性というだけで世間の壁にぶつかるぶ毎日であります。
 そして実は社会勉強中の銀座の大百貨店の御曹司という、恵まれすぎた環境に苦労などなさそうな朔もまた、彼の兄が記憶喪失となった出来事をきっかけに、実は家庭の中で大きな難題を抱えていることが、描かれるのです。

 自分が悩んでいるからこそ、人の悩みに答えられるなどという、単純なことではないかもしれません。しかし自分と同じように悩む人、苦しむ人がいることを理解し、寄り添うことができる――美津子も朔もそんな人間であることは間違いありません。そしてそんな二人を主人公にしているからこそ、本作には温かい空気が漂います。


 正直なことをいえば、本作は基本的には社会性の強い人情噺というべき内容であって、ミステリという点では物足りない部分はあります(第一話、第二話が一番ミステリ味は濃いかもしれません)。

 また、頑張る年上女性にわんこ状態のイケメン御曹司というシチュエーションも、ある意味直球すぎる気がしないでもありませんが――しかし本作の場合は、むしろそれこそが狙いなのですから、そこは見事に狙いを的中させて作品を成立させているというべきでしょう。

 いずれにせよ、本作に描かれた――時代を超えて共通するような――生きづらさの数々を包み込むような物語に、しばしばグッと来てしまうのは事実なのであります。


『君は謎解きのマシェリ』(糸なつみ 双葉社アクションコミックス 第1-3巻) Amazon

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