堀川アサコ『悪い麗人 帝都マユズミ探偵研究所』 更に刺激的、更に仰天の昭和ノワール
道楽探偵を営む伯爵の次男坊と、なりゆきからその助手になった成金のドラ息子のコンビが、昭和初期の東京を舞台に怪事件を追う『帝都マユズミ探偵研究所』、待望の続編であります。相変わらず事件に次々と巻き込まれる二人ですが、以前起きた事件の波紋はさらに広がり……
手段を選ばずのし上がってきた父を殺した疑いで警察に捕らえられた末、兄に命を狙われる羽目になった不良青年・牧野心太郎。報酬を取らずに探偵を請け負うという伯爵家の次男坊・黛望に助けられた彼は、なりゆきから住み込みの助手を務めることになります。
折しも帝都では、法の目を逃れた極悪人を奇怪な形で惨殺する「黒影法師」なる存在が跳梁。行く先々でその犯行と出くわした二人は、やがてその正体が各界のセレブの勉強会だという「楔の会」だと知ることに……
そんな前作『伯爵と成金』に続く本作は、全四話構成の連作スタイルの物語であります。
冒頭の「棘とげの家」は、黛の書斎の蝋管蓄音機に、葬儀が行われたばかりの老婦人の声で、彼女自身の生前の罪を告発せよという依頼が吹き込まれていたことから始まるエピソード。
依頼の時点でホワイダニットとでも言うべき奇怪な始まりですが、調査の中で明らかになっていく、依頼者(?)回りの三角関係は、何とも奇妙かつ不気味ですらある一方で、どこか物悲しい空気を醸し出します。そして明かされる真相には、どこか奇妙な洒落っ気すらあって――ある意味本作の中では最もミステリ味が強い一編かもしれません。
と、大人しめの滑り出しに安心(?)してみれば、それ以降のエピソードはいずれも強烈な内容揃い。
女性を陵辱・暴行するだけでなく殺人までもが行われる〈ムービー〉の製作者を突き止めるという依頼の最中、心太郎に思わぬ危機が迫る「何か報いましょう」
アングラ情報誌・モダン通法に連載されている不気味な南方体験談の語り手探しと、犠牲者の顔を食いちぎるという猟奇殺人が不気味な交錯を見せる「ラバさん」
前作で数々の悪事を働いた末に廃人となった黛の旧友・浦川。その兄の縁談を阻む、謎の恋人探しが意外な方向に発展していく「肉の恋」
美女を生贄にするスナッフムービー、男を喰い殺す南洋の魔女の因縁、男を虜にする魔性の美少年、町中に出現する巨大な肉塊――昭和初期という舞台に相応しくというべきか、今回は釣瓶打ちされるエログロナンセンスに圧倒されます。
前作でも、一見華やかな世界の陰に、途方もなくドロドロとした、危険で不気味なものが広がる世界が描かれましたが、今回はそんな猥雑で薄暗い世界が、さらに刺激的になったというべきでしょうか。
そしてその中を、華族と成金という、近いようで決して交わらない身分の(しかしそこからそれぞれはみ出した)青年たちが行く――そんな昭和ノワール世界は、本作でも健在であります。
しかし前作同様のスタイルと思っていると思わぬ不意打ちを食らうのが本作の怖いところで、特に「ラバさん」「肉の恋」の後半二編は、こんな方向に行くとは!? と思わず悲鳴を上げたくなるような展開が待ち受けます。
この戦前の怪奇ミステリ調の内容には、生真面目な方は怒るかもしれませんが――こちらは驚きはしたものの、もちろん大歓迎なのであります。
そしてもう一つ、本作において見逃せないのは、物語の節々で描かれる、前作とのリンク――前作で積み残された謎、あるいは前作の陰に隠されていた秘密の数々であります。
特に「何か報いましょう」では、前作のラストですっきりしないまま残されていた謎がついに明かされることになりますが――もちろんそれで一件落着、とはならず、そこからさらに謎が生まれるというのが本作らしいところでしょう。
また、「ラバさん」では本シリーズのキーアイテムというべきものに、想像を絶する不気味な因縁があることが明かされ、そして「肉の恋」ではさらに不穏な事件が――というわけで、もちろん本作の中で一通りの結末はついているものの、シリーズとしてはまだまだこの先が待ち受けている、と言ってよいでしょう。
個人的には、マユズミ探偵研究所と対になるのであろう楔の会=黒影法師の存在が、本作ではほとんど前面に出てこない印象だったのが気になるところですが――ラストの展開を考えれば、これは嵐の前の静けさでしょう。
この先二人を待っているであろう波乱の数々が、今から楽しみなのです。
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