ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第12巻 家督問題決着!? そして感じる主人公の成長と時間の経過
この数巻にわたり新九郎を悩ましてきた、今川家の家督争い。この巻ではその争いが一つの結末を迎えることになりますが、それは新たな争いの始まりにすぎません。そして新九郎の苦労の一方で、関東も京もいよいよ複雑怪奇な状況に……
今川義忠が暴走の末に横死したことにより始まった今川家の家督争い。新九郎も姉の伊都と甥の龍王丸のために駿河に足を運び、太田道灌に貫目の違いを見せつけられたり、対立する今川新五郎派から襲撃を受けたりと色々あったわけですが――ここで新九郎たちが思いついたのは、義忠の譲状の偽造という思い切った手段であります。
義忠の花押を新九郎が偽造し、義忠が生前に龍王丸に家督を譲ることとしていた、という譲状の存在を伊都が思い出した、という体で幕府に裁定を求めたのですが、そこに義政が首を突っ込んできて……
と、この人がやる気をみせると絶対ロクなことにならない義政の登場で、はたしてどうなることかとハラハラさせられた今川家の家督の(というか偽造文書の)行方ですが、大丈夫という伊都の想いが通じたかのように、駿河の所領は安堵されることになります。
そこにも実は――という裏の理由が幾重にも用意されているのが実に楽しい(特にかなり後で判明するものなど)のですが、しかし全てがそれほどうまくいくはずもありません。
裁定の内容は、所領は安堵するけれども、龍王丸の守護職補任は保留という、何とも面倒なもの。かくて新九郎は、地元の状況を探り、今後の布石を打つために、名代として再び駿河に向かうのですが――ここで我々が見るのは、以前に比べても大きく成長した新九郎の姿です(まず、名代に名乗りを上げた時の顔つきからして実にいい)。
義忠の死から既に三年、新五郎が実質的に収める駿河では、様々な勢力分布(ストレートに言えば所領の行方)も変わっているはず。これを受け止めつつ、将来龍王丸が駿河の主に返り咲くために何が必要か――それを考えて、焦らず着実に手を打っていく新九郎の姿は、頼もしいの一言であります。
ここで巧みなのは、新九郎の――おそらくは将来に繋がっていく――姿が示されるのが、決して突然何かに目覚めたわけでも、ましてや生まれつきにチート的な才能があったわけでもないことが、こちらに伝わってくることでしょう。それは新九郎の今のこの姿が、これまでの彼の経験一つ一つが――すなわち、我々がこれまで読んできた物語のエピソードの一つ一つが――彼の血となり肉となっているということであり、そしてそれがごく自然に納得できるという物語の構成には、改めて感心させられます。
そして彼の成長といえば、彼が伊勢家においては当主として下のものを従える立場であり、幕府においては後進を指導する立場になったことが、その後も様々なエピソードによって描かれるのも、何とも感慨深く感じられます。いや、一番感慨深いのは、物語開始当時にほんの幼子だったキャラクターの元服という、時間の経過ですが……(このくだりは新九郎と心境が大いにシンクロさせられました)
しかし、そのように成長した新九郎にとっても、なおも不可解なのは関東の情勢。関東管領に古河公方、そして堀越公方、さらには不屈の長尾景春も加わって混沌とした情勢の中、太田道灌が東奔西走し――と、物語展開を俯瞰した立場で見ているこちらでもややこしいのですから、そうでない新九郎が混乱するのも無理はない話であります。
しかしそんな中でも、以前から人よりも遥かに才能のある人間にありがちな道灌の上からの物言いが、周囲に反感を招きつつあることが描かれているのが、この後の歴史を知っていると納得なのですが……
それはさておくとして、今のところ駿河を除けば新九郎にとっては関東はあくまでも他人の庭。むしろ今の彼にとって深刻な問題は、そろそろ真剣に首が回らなくなってきた家中の財政問題なのですが――えっ、なんか言ってることが前と違う!? と言いたくなるようなあるキャラクターの身も蓋もない発言で、次巻に続きます。
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