峰守ひろかず『今昔ばけもの奇譚 五代目晴明と五代目頼光、百鬼夜行に挑むこと』 天狗との対峙 そして妖怪という希望
源頼光から五代目の源頼政と、安倍晴明から五代目の安倍泰親――共に五代目の看板に苦労する二人がバディとなって怪異に挑む物語、待望の続編であります。今日も宇治の警護を続ける頼政のもとに舞い込んだ新たな事件。再び結成されたバディ(いやトリオ?)が、都を騒がす天狗の怪に挑みます。
時の関白・藤原忠通の命で、宇治の警護を担当することになった若武者・源頼政。左遷同様の命にはじめは腐っていた彼は、やがて宇治で次々に起こる妖怪や怪異のしわざとしか思えぬ事件を、頼政は平等院に籠もっていた少年陰陽師・安倍泰親や、うさんくさい白拍子の玉藻とともに次々と解決していくことになります。
しかしある理由で上皇に目を付けられた玉藻を救うために一芝居打ち、さらに平等院に収められた鬼の首を巡る真実を知り――と、世の中の様々な姿を垣間見ることとなった頼政。そして玉藻は何処かへ姿を消し、泰親は都に帰り、頼政は一人宇治に残ることに……
という前作の結末から約半年。今日も宇治を守る頼政は、身分有りげな少年・高平太の訪いを受けることになります。物の怪に憑かれ、その治療にやってきたという高平太ですが、その供についてきたのはなんと泰親で――というわけで、名コンビ復活から物語は再び始まることになります。
もちろん、この二人がいれば玉藻も――と言うわけで、前作の切なく寂しい別れもなんのその、再び結成されたトリオ(読者としては大歓迎)が、高平太の物の怪治療に挑むことになります。
が、事態は思わぬ方向に展開していくことになります。高平太の物の怪が、一種の心の病と分析した泰親は、相手を安心させるため、平等院で調伏の儀式を行うのですが――とんでもない出来事が起きたのです。
なんと儀式の最中に現れ、宝蔵から『雲隠六帖』を奪っていった天狗を名乗る怪人。雲隠六帖――あの源氏物語で光源氏の死を描いたという幻の巻、読んだ者を皆出家させてしまう力を持つという書物が宝蔵に秘蔵されていたというのであります。天狗を追跡する頼政と泰親ですが、やがて事態はさらに混迷を深めることに……
武士と陰陽師、お人好しと現実主義という、対照的な二人がバディを組むのが実に楽しかった前作。本作も(二人の友情は一層深まったものの)その面白さに変わりはありません。
そして同時に、いわゆる陰陽師ものではありつつも、怪異というものは基本的に存在しないというスタンスにも変わりはありません。
妖怪や怪異というのは、何者かの企み等、様々な事情で生まれた一種の錯覚あるいは幻――そんな立場から描かれる物語には、いささかトリビアルな部分が多いのも気になるものの、本シリーズならではの楽しさがあります。
しかし本作を通じての「敵」となる天狗は、二人の眼前で、鳥の面を被った男から、本物の鳥人に姿を変えてみせた怪人。はたして天狗とは本物の魔物なのか。そして雲隠六帖の真実とは――思いもよらぬ展開が待ち受けているのであります。
本作は、そんな天狗との対決を中心とした全五話の物語。今回は宇治から離れ、熊野から播磨まで舞台は広がっていくのですが、いずれも独自の妖怪・伝説解釈に唸らされます。
特に安珍・清姫伝説を題材とした第二話など、この題材でそちらに広がっていくのか! と仰天させられること請け合いの一大伝奇。結末に仄めかされるモノの存在も嬉しく、個人的には一番好きなエピソードです。
さて、そんな楽しさの一方で、本作は各話を――天狗との対峙を通じて、ある種の現実への危機感を描くことになります。それが何であるかはここでは詳しくは触れませんが、特にクライマックスで明かされる、天狗の正体の恐ろしさは、「今」という時代の空気を如実に映したものと言ってよいでしょう。
しかし、本作はその恐ろしさと同時に、一つの希望を――平和と安寧への希望を、思わぬ形で描き出します。それも本作の中心となる、怪異と妖怪といった存在を以て。
得体の知れない怪異に、名前と姿を与えた妖怪。その存在が希望を呼ぶというのは奇妙に感じられるかもしれません。しかし本作で描かれるその理由は、妖怪という不合理なものを扱いながらも逆説的に人間の理性を示すものであり――そしてそれはさらに本作の天狗と対照的な存在であることを、結末において明らかにするのです。
(そして本作の主人公二人が――怪異と妖怪たちを討ち祓ってきたはずの二人が――そんな希望の象徴として描かれることに、どこかホッとさせられます)
できればこの先もこのシリーズが、このシリーズならではの怪異と妖怪が描かれていってほしい――心よりそう思います。
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