伊藤勢『瀧夜叉姫 陰陽師絵草子』第4巻 一大アクション、藤太対将門!
伊藤勢版『瀧夜叉姫』も、あまりに濃厚な内容ゆえにもうだいぶ巻が進んでいた印象でしたが、これで四巻目。「現代」で謎の姫の一党の暗躍が続く一方で、この巻のメインとなるのは「過去」――人外の魔人となった将門と、俵藤太の死闘が展開することになります。
二十年前に平将門の乱に関わった人々が、次々と奇怪な賊や魔物に襲われるという怪事に巻き込まれることとなった晴明と博雅。夜毎、謎の女に釘を打ち込まれるという悪夢に苦しめられている源経基にかけられた呪詛を解いた晴明は、人の悪さ全開で経基から将門のことを聞き出すことになります。
一方、京で暗躍する異能・異形の土蜘蛛たちの集まる場に飄然と姿を現したのは蘆屋道満。自分を見物人と称する道満は、面白い展開にならねば許さんとばかりに彼らを焚きつけるのですが……
と、相変わらず本作ならではの、本作でなければ見られないような晴明・博雅・道満像が非常に楽しい(特に、「博雅はよい漢だ」を本作流に描くとこうなるとは! と大笑い)のですが、実はこの「現代」パートは、この巻の冒頭二割程度に留まります。
以降、この巻で描かれるのは「過去」の物語――俵藤太と平将門の対決の物語であります。
ただ一人で来れば会うという将門の文に応えて藤太が関東を訪れてみれば、現れたのは(いかにも夢枕獏らしい)器の大きさを感じさせたかつての姿とは全く異なる、姿も心も魔人になったとしか思えぬ将門。さらに闇討ちまでして襲ってくる将門から、将門の愛妾・桔梗の助けで藤太は辛うじて逃れ……
文章にすればほぼ原作通りではありますが、しかし絵にしてみると、伊藤勢ならではの一大アクションが展開するのが本作。特に将門の本拠(巨大な樹に融合するような形の城塞というセンスも凄まじい)から、文字通り飛び出しての逃走劇のアクション設計の巧みさは、以前描かれた大百足との対決に迫るものがあります。
そしてその後も、ついに討伐軍として将門軍と対峙した藤太が、奇怪な妖魔と一騎打ちを繰り広げるくだりも――これは本作オリジナルですが――平安時代でファンタジーを描けばこうなる、といわんばかりのインパクトであります。
そんなわけで、この巻の主人公はほとんど完全に藤太なのですが――考えてみれば「現代」パートでは(当の藤太以外は)アクションできる人間がいないわけで、彼はその分暴れ回っているという印象もあります。
そして長編の途中で長い過去編が入るのは、これはもう夢枕作品ではお約束なのですが――しかし贅沢にも食い足りなさが残ってしまうのは、これはもう「現代」パートの晴明と博雅コンビが面白すぎるから、としか言いようがありません。
もっとこの二人のやりとりを見てみたい、本作ならではの二人を見たい。いや、この二人で『陰陽師』ものの短編を読みたい――そんなことを思ってしまう二人の出番はもう少し先でしょうか。
まだ決着のついていない藤太と将門の戦いの行方もさることながら、そんなことを考えてしまうのであります。
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