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2023.02.11

森山光太郎『卑弥呼とよばれた少女』 迫る火の神の子vs天孫、決戦の刻!

 邪馬台vs大和、卑弥呼vs天孫というシチュエーションの妙に驚かされた『火神子 天孫に抗いし者』の続編であります。大和の脅威に対抗するために倭(九州)に向かい、国々をまとめんとする翡翠命。しかし彼女の前に、倭最強の敵が立ち塞がります。

 大陸から倭国に渡り、その統一のために諸国に侵略を開始した大和の王・御真木によって、父と一族、民の全てを失った長髄の姫・翡翠命。一度は死を恐れ、戦う心を失った翡翠命ですが、恐れながら懸命に努力するある少女の姿に奮起――高島宮で繰り広げられた大和との死闘の最中にその力を覚醒させ、死地からの脱出に辛くも成功することに……
 という場面で終わった『火神子』の続編である本作では、なおも続く大和の攻勢に抗うため、倭(九州)に渡り、この地の統一を目指す翡翠命の姿が描かれることになります。

 二十年前、その力を謳われた王・帥升が命を落としてから、小国同士が争いを続ける倭。その中で耶馬台と投馬を瞬く間に手にし、帥升の忠臣だった老将・弓上尊を配下に加えた翡翠命ですが、敵は南北に存在します。
 東から迫る大和と結び攻勢を強める北の四国もさることながら、しかし最大の脅威は南の隼人――そして隼人を率いるのは、かつて高島宮で翡翠命たちと共に戦いながらも、翡翠命の強さに魅せられ、彼女を倒すために王となった無双の武人・菊地彦であります。剣を交えれば翡翠命以外では到底及ばない豪勇を示す菊地彦ですが、しかし彼は戦いの中で翡翠命の中の変化に気付き、翡翠命も己の中の、ある心に苦しむことになります。

 そんな中、北国を平定し、中国四国を殲滅して迫る大和軍。そして翡翠命の幼馴染であり、師・左慈の息子でありながら大和に降り、その覇業を助けてきた左智彦が御真木に授ける策とは……


 前作が卑弥呼(本作においては「火神子」)誕生編だとすれば、躍進編とでもいうべき内容の本作。敵対する者と弱者は一切許さない大和の覇者・御真木を阻むべく、覇者と王者双方の資質を持つ翡翠命がついに立つことになります。

 しかしそのためには小国が群立する倭を統一せねばならず、しかも大和が他の地域を統一して倭に到達するまでにそれを成し遂げなければならない――そんなタイムリミットがある中で、翡翠命の苦闘は続きます。
 そんな中で最大の敵になるのが、隼人の王・菊地彦ですが――前作のクライマックスで翡翠命たちと共に戦った間柄だけに、ここで敵対するのか! と驚きましたが、なるほど、菊地彦=クコチヒコであるとすれば、それは必然というべきかもしれません。

 そんなわけで、本作のほぼ全編を通じて、弥生時代の国盗り合戦という、これまでの作品ではほとんど見られなかったような合戦模様が描かれることになるのですが――正直なところ(こういうことはあまり書かないのですが)、自分語りと男臭い会話で進んでいく物語描写は、どうにも既視感があり、今ひとつ乗れなかったというのが正直なところではあります。

 しかしそんなマッチョな世界の中で、異彩を放つのが翡翠命の存在であることは言うまでもありません。
 前作では一族の幼子の処刑を目の当たりにしたことで死の恐怖に取り憑かれ、一時は完全に戦う心を喪った翡翠命。今は死の恐怖は残しつつも、戦う心は完全に取り戻したのですが――しかしその心の中では、裏切りという行為への激しい怒りがくすぶっていたのであります。そしてその怒りは、火の神の子を自称する彼女にとっては命取りとなる「人間らしさ」というべきものとして描かれます。

 しかしそもそも彼女の中に裏切りの怒りを植え付けたのは、左智彦の存在なのですが――その彼のある行動が、本作の後半では描かれることになります。
 正直なところ、彼の行動理由については、前作の時点で皆予想していたかとは思いますが、しかしここで見せる彼の想い、いや心意気は、それでもなお実に熱く、そして本作ならではのものとして響きます。


 そんな左智彦の一世一代の見せ場から菊地彦との決戦になだれ込み、ひとまず本作は結末を迎えることになります。倭国の命運を左右する一大決戦はもはや目前、をおそらくは次回作で決着するはずのこの戦い――「火の神の子」翡翠命と「天孫」御真木の戦いはどのように決着がつくのか、そして「史実」とはどのような整合性を見せるのか?
 その結末を目にする時を今から心待ちにしています。


『卑弥呼とよばれた少女』(森山光太郎 朝日新聞出版) Amazon

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