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2023.04.21

安田剛士『青のミブロ』第8巻 「敵」たちが抱えたもの、背負ったもの

 京の町に火を放とうとする血の立志団とミブロとの全面対決も、いよいよこの巻でクライマックスを迎えます。立志団の幹部たちも、残るは首領格の京八直純とその弟・陽太郎のみ。そしてその一方で、陽太郎の妻・ナギもまた、自分の戦いに挑むことになります。それを目の当たりにしたにおは……

 武士の世をもたらすため、京を火の海にして大混乱をもたらそうとするテロ集団・血の立志団の挑戦を受けたミブロ。その戦場に選ばれた七つの橋の上で、ミブロと立志団は激しくぶつかり合うことになります。
 永倉が、原田が、土方が、はじめが、それぞれの想いを胸に立志団の幹部格を阻み、残すは芹沢と京八直純、近藤と陽太郎のみとなりました(何となくまだ戦っていない敵がいたような気もしますが……)。

 しかし兄弟である直純と陽太郎の強さは別格であります。かつて将軍家茂を暗殺せんと立ちはだかり、土方と互角以上の戦いを見せた直純はもちろんのこと、その直純をして自分以上と言わしめたのが陽太郎なのですから。
 かつて自分の道場で竹刀を取って近藤と対決し、三本勝負とはいえ彼を破ったほどの腕を持つ陽太郎。その陽太郎と近藤が、再度対決することとなります。

 血の立志団の中では最強でありながら、しかしあぶれ者ばかりのメンバーの中では例外的に正道を歩む陽太郎。その彼が何故直純の企てに加わったのか――そんな疑問はあるものの、いざ真剣を以て向き合えば、後はただ命を賭けて戦うのみであります。
 そしてその戦いの行方は――彼が抱えてきたもの、そして背負ってきたものを描く(しかし近藤には伝わらない)結末には、ただもの悲しさが残ります。


 そして近藤と陽太郎に、共に道場主であり、一心に剣を極めんとする好青年という共通点があるとすれば、これまでの人生で流浪を重ね、剣を己の意を叶える力とする無頼漢という点で共通点を持つのが、芹沢と直純であります。

 本作においては、強烈な強面ではあるものの、どこか茶目っ気を持ち、におに対しても一定の理解を示す芹沢。しかし直純に対しては、かなり手厳しく、上から目線で言葉をぶつけることになります。あるいはそれもまた芹沢らしいといえばらしいのですが、しかしそんな芹沢の中に苛立ちを見たとき、その厳しさの理由が理解できるように思えます。

 上で述べたとおり、ある種の共通点を持つ芹沢と直純。今は京を守る者と襲う者と立場は全く異なるものの、芹沢ほどの男が、直純の胸の中にあるものを悟れないはずがありません。あるいは自分自身であったかもしれない男との対決とその結末――それは、今後の彼の運命にも影響を与えるのではないか。そんな予感があります。

 そしてまた、直純の(これも芹沢には伝わらない)過去を知る時、正直なところこれまで微妙に感じられてきた「血の立志団」という名前に込められた意味が、胸に刺さるのであります。


 そしてミブロと立志団との戦いはほぼ終結し、京は守られたのですが――しかしそれと平行して、いやその後も続く戦いがあります。それは陽太郎の妻・ナギが子を残すための戦い――産気づいた彼女は、この混乱の中で、子を産むために懸命の努力を続けるのです。

 におとは町で偶然に知り合い、親しくなったナギ。その彼女とにおが敵同士として対面することになったのは悲劇というほかありませんが――しかしナギはにおが差し出す手を払いのけ、普段の天然めいた顔とは全く異なる姿を見せることになります。
 直純のテロリズムを、そして陽太郎がそれを扶けることを認め、理解するかのように語るナギ。それに対するにおの言葉を理想論と切って捨てる――その姿は強烈なエゴに満ちたものに見えるかもしれません。

 しかし夫と義兄同様、彼女にも抱えてきたものが、背負ってきたものがあります。そして戦うべき理由もまた。そしてその戦いを、図らずもにおをはじめとするミブロも助けることになるのですが……

 その果てに待つものは何であったか。におも、いや読者も驚愕したその結末を受けて、この次の巻に何が描かれるのか、必見であります。


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