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2023.04.05

松浦だるま『太陽と月の鋼』第6巻 悲しみの過去を断つ刃

 奪われた愛する妻・月を追う中で、通力使いを束ねる土御門家晴雄の奇怪な企てと対峙することとなった竜土鋼之助の苦闘はなおも続きます。前巻で彼の前に立ちふさがったのは、異常なまでの運の強さを持つ博打打ち・天朸。彼との賭博勝負で、月の命を賭けることとなった鋼之助ですが……

 通力使いとの戦いで疲弊した末に、かつて天狗小僧と呼ばれた男・高山嘉津間に助けられた鋼之助。嘉津間の口から、土御門晴雄にまつわる奇怪な物語を聞かされた鋼之助は、それでも月を救うため、明、そして卜竹の三人で、下総の諏訪明神に「飛び」ます。
 そこで鉄火場に飛び込んでしまったところを、天朸と名乗る博打打ちに助けられた鋼之助ですが――しかし実は彼こそは土御門家配下十二天将が一人「うさぎ目の天朸」。この天朸と月の居処の情報を賭けて勝負することになった鋼之助ですが、負ければ月の命が奪われることに……


 嘉津間と晴雄を過去を巡る奇怪な物語の次は、この天朸とのギャンブル勝負が描かれる本作。まったく何が待ち受けているのか予想もつかない物語ですが、ここで強く印象に残るのが、天朸のキャラクターであることは間違いありません。
 己のサイコロの出目を自在に操るという、博打においてはほとんど無敵の力を持ちながらも、それに倦み、むしろ自分の敗北を望んでいるかに見える天朸。この巻では全体の約半分をかけて、彼の背負った壮絶な悲しみの過去の物語が描かれることになります。

 かつて天保の飢饉の最中、なすすべもなく飢えに苦しむこととなった天朸の村。そして万策尽きた時、村長は一つの提案をすることになります。村のものに数字を割り振り、月に一度賽を振って出た目の者が死ぬ――あまりに無情で残酷ながら、しかし村人たちに受け入れられたこの方法により、村人たちは命を繋ぎ、天朸たちの食卓も少しずつ豊かになっていきます。
 しかしこのやり方に反発し、密かに妻と天朸たち以外の子を逃した天朸の父。その結果、天朸は恐るべき真実を知ることに……

 天保の飢饉を題材とした物語は様々にありますが、その中でも屈指の無惨で悍ましい物語であるこの天朸の過去編。(ある意味こうした物語の定番ゆえに)この「博打」の正体も、天朸の家族を待つ運命も途中で予想がついてしまうのですが――それだけに絶対その予想が外れてほしいと心から願ってしまうのは、これはやはり限られたページ数の中でも天朸に感情移入させてしまう、描写の妙としか言いようがないでしょう。
 一読鉛を飲み込んだような気分になること請け合いのエピソードであります。


 しかし、たとえ相手がどれだけ悲惨な過去を背負おうとも、どれだけ強力な力を持とうとも、鋼之助には決して負けられない理由があります。
 その末に立ち上がった鋼之助が放った一撃は、そしてその結果は――直前までここまで重い話を描いておいて、それでもなお、いやそれを踏まえてこそ、ここまで能力バトルものとして盛り上がる展開と結末を用意するか! と驚かされる、と言ってよいでしょう。

 そして勝負の結末を受けて、笹川繁蔵(!)が語る言葉もまた泣かせるのですが――しかしやはり気になるのは、ここで鋼之助が発揮した通力の正体でしょう。
 これまで「触れた金属を曲げてしまう」という、なんとも締まらない能力に見えた彼の通力。しかしこれまでの戦いの中で、彼の通力が、彼の刃がそれに留まらない、凄まじい力を持つことが仄めかされてきたわけですが――今回描かれたのは、これまでのそれともまた異なるものであります。

 はたしてその力の正体は何なのか? 唯一それを知ると思しいのは月ですが、これまた謎だらけである彼女の正体の一端が、ここで描かれることとなります。
 何となく予想しつつも、しかし絵で見るとやはり驚かされる彼女の正体の全貌は、そして彼女が鋼之助を愛する理由は何なのか――それらがまだ見えぬ中、ついに! と言いたくなるような場面を描いて、この巻は終わることになります。

 もちろんこれもまた、予想もつかないようなさらなる物語へと繋がっていくことは間違いないのですが……


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