鶴淵けんじ『峠鬼』第6巻 離ればなれの三人 そして鬼と人と神を結ぶ「呪」
壬申の乱直前の時期を舞台に、神と鬼と人の関係を描いてきた本作もいよいよ佳境に突入したという印象であります。月夜見命の力で一言主の下に向かったはずが、とんでもない事態となってしまった役小角・妙・善。三人がそれぞれ知った恐るべき真実の一端とは……
葛城山から姿を消し、「地球で一番高い山」――月にいる一言主に会うため、出雲の深山で月夜見命と対面した三人。そして月夜見命の神宝の力で月に跳んだ三人ですが、しかし月の一言主の前に現れたのは善のみ、小角は近江に現れ、そして妙は小角の師である三世上人の前に現れることに……
そんなあまりに意外な展開から続くこの第六巻。前巻のラストでは、小角はやむなく三種の神器を吉野の東宮――すなわち大海人皇子のもとに届けることとなりましたが、善と妙は、さらに驚くべき経験をし、意外な真実を知ることになります。
まず月に現れた善ですが――彼にとっても一言主と会い、願いを叶えてもらうことが目的であったことを思えば、彼女と出会えたこと自体は、その目的の一端を果たしたといえるかもしれません。
しかし、鬼から人間に戻りたいというその願いへの一言主の答えは意外なもの。いかなる願いも一言で叶えるはずの一言主がなぜ――その疑問は、その後の一言主の意外な姿によりさらに深まることになります。
一言主に今語れるのは、鬼の存在は、人と神と――そして「呪」に関わるものであることのみ。そして神でも語れないその真実を語ることができるのは、人に非ざる人、神ならず神に伍する者なのであります。それは……
一方、かつては葛城山で激突した仙人・三世上人の前に出てしまった妙。彼女は相手が自分のことを覚えていないのをいいことに、小角と再会するか細い手蔓として、三世上人に弟子入りすることになります。
ある目的で諸国を巡っているらしい三世上人ですが、その途上での姿は、かつて小角の試練のためだけに善の村を地獄と化し、鬼を生み出した所業とは同一人とは思えません。混乱する妙ですが、やがて彼が人間の善悪の感情とは無縁――というより、人間を路傍の石程度にしか認識していないのを悟ることになります。
そんな相手と奇妙な(途中のあるシーンはさすがに度肝を抜かれましたが)旅を続ける中で、妙は彼から、「呪」の何たるかを聞かされることになります。そしてもう一つ、妙は過去のある経験から気付くことになります。三世上人の「正体」を……
これまで(基本的に)離れることなく旅してきたものが、思わぬ形でバラバラとなってしまった三人。この巻では、三人がそれぞれの形で、それぞれに物語の核心に迫っていくことになります。
その内容については、あまりに核心ゆえにここでは書けないのがもどかしいところですが――しかしこれだけは書けます。そのそれぞれに関わるものが、すなわち物語の根幹がを成すのが、「呪」であるということを。そしてそこに密接に関わるのが、三世上人であるということを。
思えばこの巻はその事実を、物語の構造と重ね合わせたものといえるのかもしれませんが――さて、再び集った三人の情報を突き合わせた時、浮かび上がるあまりにも巨大な企みを何と評すべきでしょうか。
そしてそれが壬申の乱という人の歴史における一つの事件と重ね合わせる時、物語がどのような経過を、結末を辿るのか――今はまだ、全く予想すらできないのです。
が、そんなちょっと気の早い思いを完全に吹き飛ばすのが、ラストに収められた「幕間」の内容です。
出雲に集った国津神たちの前に現れた天津神たち。天津神たちは、ある目的のために人界に一柱の神を送り込もうとしていると語るのですが――その人選いや神選を任された大国主が選んだ者とは?
ええええええっ、確かにその選択はわからないでもないものの、この状況でこの方が出陣しますか!? と度肝を抜かれること請け合い。もはやこの先、大波乱しか待ち受けていない、としか言いようがない展開ですが、それだけに期待はいよいよ高まってしまうのです。
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