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2023.04.01

霜島けい『生目の神さま 九十九字ふしぎ屋 商い中』 印籠の中の目玉!? 小さな祈りが生んだ呪いと救い

 深川で曰く付きの品ばかりを取り扱う九十九字屋を舞台に繰り広げられる不思議な騒動を描いてきた本作もこれで「九」作目。るいの周囲で起きる不審な出来事の原因は何か、ある朝、九十九字屋に届けられた印籠の中に入っていた目玉とは――不可思議でいてどこか切ない二つの物語が描かれます。

 前向きなのが取り柄の霊感少女・るいと、皮肉屋で無愛想な店主の冬吾が切り盛りし、るいの父親で今は「ぬりかべ」の作蔵と猫の妖のナツがたむろする九十九字屋。そこでいつもと変わらぬ日々を過ごするいですが、冬吾の兄・周音のもとを訪ねたことがきっかけで、騒動が始まります。

 前作の「鬼の壺」で、冬吾を助けてくれた周音に礼をいうために訪ねたるい。そこでるいの背後を見て複雑な表情を見せた周音は、るいに貰い物だという匂い袋を渡したのです。
 この袋を周音に渡したのが誰か興味津々のるいですが、冬吾は渋い顔。ついに冬吾に匂い袋を取り上げられ、使いに出されたるいですが、何故か後から冬吾がついてくるではありませんか。

 冬吾が何を考えているのか訝しむるいですが、その後も、外出先で悪霊に出くわすなどおかしなことが続きます。どうやら一連の出来事は冬吾に恨みを抱く何者かが、るいを彼の弱味と見て狙っていたらしいのですが――そのきっかけは数年前に冬吾が客から引き取った「福石」にあるようで……

 と、るいの周囲で周音や冬吾が不審な言動を見せたり、悪霊に脅かされたりと不穏な空気が漂う――ようでいて、るいが完全に勘違いしたり、全く相手にしていなかったりするのが何ともおかしい本作。
 特に悪霊と出くわした時のリアクションはるいならではで、「なんだ、あの娘は……?」と言いたくなるのもよくわかります。

 さて、物語自体は、冒頭に福石にまつわる過去の出来事が語られるだけに、冬吾を恨んでいるのが何者かはすぐに予想はつきます。しかし、その人物が何故その福石なるものを持っていたのか、そして利用していたかを語る時、物語は全く別の顔を見せることになります。
 全てを語ることは避けますが、自分たちには全く責任のない災厄に巻き込まれた者のやり場のない想いを描き出すとき、ユーモラスな妖怪小説だったこの物語は、我々自身の――我々の暮らす世界で起きている出来事を描く物語へと変貌を遂げるのです。

 るいを取り巻く人間関係にニコニコさせられていたと思えば、突然に「刺さる」人情ものとしての顔を見せる――名手の技と感心させられます。


 さて、後半に収録されている表題作「生目の神さま」は、ある朝、九十九字屋の店先に印籠が置かれていたことから始まる物語です。
 るいが何の気なしに印籠の中を覗いてみれば、そこに入っていたのは二つの目玉。どうやらこの印籠の持ち主は、冬吾も昔から知る按摩・寿安のもののようなのですが――奇妙なのは寿安自身も、誰が何を届けるのか知らなかったことであります。

 それだけでなく、先代の頃から九十九字屋に出入りしていたにもかかわらず、寿安の見かけはどう見ても三十前後。しかしあやかしではなく普通の人間である寿安は何者なのか――その疑問に応えるように、寿安は自分の目玉にまつわる奇妙極まりない物語を語り始めます。
 そしてそれを語り終えた時、寿安は明日一日るいの手を借りたいと言い出して……

 ある意味タイトル通りというべきか、目玉にまつわる奇譚である本作。生目の神さまというと、悪七兵衛景清ゆかりの生目神社が浮かびますが、本作で描かれる「神さま」は、どこか身近で暖かく、そしてそれだけに生々しく恐ろしい存在であります。
 そんな存在に対して小さな魂が祈った結果は――見方を変えれば紛うことなき怪談であり、恐るべき呪いの物語でありつつも、しかしそれを人の想いが、人の優しさが一つの救いに変えていく様に心打たれます。

 クライマックスで描かれる美しい奇縁と、その先の優しい結末。本作もまた、実にこのシリーズらしい物語であります。


 それにしても本書に収録された二話に共通するのは、るいと冬吾のあまりの鈍さですが――いやはや、この二人の近くにいると、どれだけニヤニヤさせられたりやきもきさせられることか。ナツさんをはじめ、周囲の気持ちも想像できるというものです。


『生目の神さま 九十九字ふしぎ屋 商い中』(霜島けい 光文社文庫) Amazon

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