陶延リュウ『無限の住人 幕末ノ章』第8巻 「不死力」という呪いを解くために
佐々木只三郎率いる幕府の刺客団・挽斃連の襲撃を受け、手足を失う大ダメージを負いながらも辛くも只三郎を倒した万次。しかし共に戦った御庭番は、それが只三郎の父・源八だと告げます。源八の存在の陰に恐るべき真実を悟った綾目歩蘭は、ある覚悟を固め――そして本作最大の悲劇が描かれます。
高杉晋作の挙兵で思わぬ役割を果たした後、京から脱出した桂小五郎を迎えに行った万次。そこで彼は、以前対峙した挽斃連と、本格的に激突することになります。
小太刀日本一と謳われる只三郎から桂たちを守るため、片手と両足を奪われた万次ですが、勝海舟配下の御庭番たちに助けられ、奇策を以て反撃。身を削るような戦いの末に辛うじて只三郎を倒した万次ですが、それを目の当たりにした御庭番・應榮は、相手が只三郎ではなくその父・源八だと語り……
と、不可解な謎を残して終わった前巻ですが、この巻の冒頭で明らかになったのは、源八が不死力付与実験の被検体であったという事実。その割には万次との戦いの中では別に不死力を見せることもなかった源八ですが、既にかなりの年齢にもかかわらず、只三郎を名乗ることが出来るほどの外見である点に、その力の一端が表れているということでしょう。
しかし問題はそんなことではなく、源八の存在を歩蘭が――不死力を分析し、人体に適用することにおいては第一人者である彼女が知らなかったことにあります。以前登場した鴨壱號のことも含めて、江戸城内で、自分の関与しない実験が行われている――不死力解明に取り憑かれながらも、しかし先祖に比べれば遙かに良識的な彼女にとって、それは耐えきれない事実であります。
かくて彼女が應榮とともに向かうのは、江戸城地下の実験場。そこに秘匿され、血仙蟲を今なお生み出す万次の右腕(『無限の住人』の最終決戦の地・那珂湊で失われたやつ)を滅ぼさんとする歩蘭ですが……
前巻では肉人の伝説まで引いて語られた万次の右腕にまつわる不気味な「事実」。この幕末編でこれまで描かれてきた不死力にまつわる諸々の出来事は、この右腕が祟ったものであった――という展開は、伝奇ものとしては面白いところではあります。しかし本作は本伝よりも遥かに歴史ものとしての色彩が強い作品であり、違和感は少なくないところではあります。
それはそもそも、万次の不死力は、万次が死なない剣士であることを示す上でのガジェットに過ぎなかったのでは――という個人的な印象に引きずられているのが大きいのですが……
それはさておくとして、ここで歩蘭が見せた覚悟は、これまで長きに渡り様々な人々に影響を与えてきた、不死力という呪いを解くためには不可欠なものであります。そしてそれはやはり讃えるべきものでもあることは、間違いありません。その代償はあまりに大きなものではあったにせよ……
(それこそ、沙村広明の別の作品かと思うほどに)
しかしその呪いによって命を繋いだ者がいるのもまた事実ではあります。本作の沖田総司はその一人ですが、しかしその力が既に失われたことを知った時、彼が何を想うのか? その一端が、この巻のラストで描かれることになります。
そしてこの先、彼の刃はどこに向かうのか――それはまだわかりませんが、彼にとって、周囲にとって幸いにはならないことだけはわかります。
ほとんど万次の与り知らぬところで歴史が流れているのはある意味当然とはいえ、(この巻で何となく約一年の時間が流れてしまった点も含めて)正直なところスッキリしないものはありますが、この巻の終盤で描かれた薩長同盟以降、幕末の歴史がさらに激動の度合いを強めることは言うまでもありません。
そんな中で万次が何を見ることになるのか、最後まで付き合いたいと思います。
『無限の住人 幕末ノ章』第8巻(陶延リュウ&滝川廉治&沙村広明 講談社アフタヌーンコミックス) Amazon
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