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2023.06.18

安田剛士『青のミブロ』第9巻 再び立ち上がる少年と新選組の闇を引き受ける男

 血の立志団の幹部たちを倒し、暴挙を阻んだミブロ。しかし思いもよらなかった犠牲の大きさに、におの心は深く傷つきます。におは再び立ち上がることはできるのか!?
 そして物語は新章に突入、新たな仲間が登場する一方で、あの男の暴走が大変な結果を招くことに……

 武士の世をもたらすために京を火の海にしようとした血の立志団とミブロの全面対決はミブロの完勝。しかしその陰で、大きな犠牲が払われていました。立志団のリーダー・直純の弟にして最強の剣士・陽太郎――真剣勝負の末、近藤が心ならずも斬ることとなった彼の妻・ナギは、大混乱の中で子を産み落としたものの、そのまま力尽きて命を落としたのです。

 血の立志団は壊滅したものの、におたちの努力虚しく、ある意味彼らに巻き込まれた形となった陽太郎の家も、皆命を落とすこととなった――そんな結末を迎えた前巻。
 その直前、ナギと言葉を交わし、皆を救おうとするその考えは理想論に過ぎないと切って落とされていたにおにとって、ナギの死は、図らずも彼女の言葉の正しさを証明したようなものであったといえるでしょう。

 そして残酷な現実を突きつけられ、己の殻に閉じこもってしまったにお。彼を救い出すことができるのは……


 ある意味、この手の物語の常道を敢えて壊すような、前巻の衝撃的なラストを受けて描かれるエピローグともいうべき展開。物語が始まって以来、ただひたすらに前を向いて、明るく正しく突っ走ってきたにおにとっては、あまりにも大きく、深い穴に落ち込んだといえるでしょう。

 しかし、もうにおは一人ではありません。彼一人では抜け出せない穴から、彼を引き上げるべく、それぞれの立場で、ミブロの仲間たちは努力します。例えば、かつての無気力で世を呪うような態度を振り捨てて、におに語りかける太郎。におの想いを受け継ぐかのように、過激浪士に狙われる姉小路公知(!)護衛の任に就くはじめのように……

 もちろんにおたちの言葉が、行為が、全て良い結果をもたらすとは限りません。それでも、理想を掲げ、希望に向けて進むこと――それこそが人としてあるべき、美しき道である。言葉にすれば途方もなく青臭いですが、しかしそれは紛れもない真実でもあります。
 少々意外な――しかし言われてみれば妙に納得できる――人物の言葉は、ストレートなだけに、胸に響くものがあります。

 そして将軍家茂は江戸に帰還することとなった一方で、京に残ることとなったミブロ。そして家茂を見送る彼らの姿は……
 そもそもの立志団との戦いが始まるきっかけとなったにおと家茂の出会い。そのまた出会いのきっかけとなったものを回収しつつ、このエピローグで鮮やかに披露してみせる――惚れ惚れするような結末であります。
(そしてそれまで疲れたような瞳だった家茂が、におたちの姿を見て、それまでと全く異なる表情を見せるのもまた泣かせる)

 きっと誰にもわかるはず――沖田のラストのモノローグも見事に決まり、まずは第一部大団円、といったところでしょうか。


 さて、元々本作は、大正の世に老いた永倉が子どもたちにミブロの(中の少年三人の)ことを語るというスタイルで始まりましたが、ここで再び永倉が登場。ここで永倉は「新選組の闇を全て引き受けて敗れていった男の話」を始めることになります。

 はたしてそれは誰か? それを語る前に、家茂の見送りで大坂に来たにおと近藤は、そこで何やら不審な青年を見つけ、誰何するのですが――この青年がなんと山﨑烝。そして実は彼の実家が、悪徳与力の内山彦次郎に目を付けられていて――と、なるほどここでこう繋げてくるか、という展開であります。
 思えば本作は、これまで史実(実際の新選組にまつわる事件)とのリンクはかなり少なかったのですが、ここに来て――と思えば、この巻のラストでは、あの大事件が発生することとなります。そう、大坂での力士との乱闘事件が。

 芹沢鴨が力士に暴行を加えたことにより始まったといわれるこの事件ですが、本作で描かれるその発端は、なるほどこうくるか、というもの。本作における芹沢は、確かに強面で暴力的ながら、どこか筋の通った人物として描かれてきましたが、ここでの展開はこの鴨像を踏まえたものといえるでしょう。


 しかしもちろん、だからといって芹沢の行動が不問に付されるはずがありません。この先、永倉が語る「敗れていった男」であろう芹沢がどのような運命を辿るのか――目が離せません。


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