上田秀人『勘定侍 柳生真剣勝負 七 旅路』 珍道中!? 男と女、二つの旅路
『勘定侍 柳生真剣勝負』も、気が付けばもう第七弾であります。宗矩と決裂しつつも、兄・十兵衛のために柳生に向かうことになった一夜。本作は「旅路」の通り、一夜と十兵衛の道中が描かれることになります。そしてもう一組――大坂から江戸に一夜を追ってきた永和と佐夜の旅路も……
大目付から大名に昇格した柳生宗矩が、家中の財政建て直しのために大坂から呼び出した庶子・一夜。しかしはじめは仕方なく宗矩に協力していた一夜も、自分が協力して当然と言わんばかりの態度でこき使う宗矩に愛想を尽かし、老中・堀田正盛と組んだ上で、公然と宗矩に反抗することになります。
その末に、柳生屋敷を飛び出した一夜の警護役を買って出たのは、柳生家で唯一一夜の才を認め、そして父のやり口に反発した柳生十兵衛であります。一夜もまた、唯一「話せる」存在である十兵衛のため、柳生の郷を富ませるべく江戸を旅立つことに……
というわけで、ついに宗矩と完全に袂を分かった一夜と、一夜の側についた十兵衛。本作では、この二人の(珍)道中が物語のメインとなります。
基本的に色々な意味でダメな人間の多い柳生家ですが、そんな中で唯一常識人である十兵衛。いわゆる剣術バカではありますが、それがポジティブな方向に働き、父をはじめとする柳生家のやり方に逆らう姿は、まさに我々のイメージの中にある「柳生十兵衛」その人という印象があります。
そして基本的には武士嫌い、隙あらばdisってくる一夜も、十兵衛だけは――事あるごとに鍛錬せいと言ってくるのには辟易としつつも――「お兄はん」と心安げな態度を見せることになります。
立場は全く違えど、互いにその才と人間性を認め、血縁として気を許し合う一夜と十兵衛の姿は何とも微笑ましく、道中での二人の噛み合っているような噛み合っていないようなやりとりには、思わず頬が緩むものがあります。
しかしこの二人、敵に回してはいけないという点では作中でもトップクラス。十兵衛の剣はもちろんですが、そこに一夜の頭の冴えと相手のペースを狂わせる煽りスキルが組み合わされば、ま無敵というほかありません。
本作では小田原藩の横目付や箱根関所の番頭の嫌がらせ、道中での食い詰め浪人の襲撃、さらには宗矩の意を受けた伊賀者の待ち伏せなど、数々の妨害があるのですが――これはまさしく相手が悪い。痛快を通り越して、思わず敵の側に同情してしまうほどであります。
さて、そんな一夜と十兵衛の江戸から柳生への「旅路」が描かれる一方でもう一つ、一夜を巡る二人のヒロインである永和と佐夜が、大坂から江戸に向かう「旅路」が描かれることになります。
一夜同様根っからの商家の人間であり、一夜の嫁候補である三姉妹の長女として、今は一夜の実家でその商売を手伝う永和。元は柳生の忍びであり、宗矩の命で一夜を籠絡しようとして撥ねつけられ、女のプライドその他もろもろで一夜を狙う佐夜。
生まれも育ちも全く異なる二人ですが、江戸の一夜を迎えに行く永和の護衛役として佐夜が同行し、呉越同舟、江戸に向かうことになります。
本来であれば相容れないはずが、商人として卓越したセンスを持つ才女の永和と、美貌の下に卓越した忍びの技を持つ佐夜と――事あるごとに突っつき合いながらも、互いをライバルとして認め合い、信頼しあう姿には不思議な爽やかさと微笑ましさがあります。
しかし問題は、二人とも一夜が既に江戸を発ち、西に向かっていると知らなかったこと。さらに江戸には船便で来たために、完全にすれ違うことになります。そしてさらに悪いことに、佐夜が柳生家の者に見つかり、宗矩らに狙われることに……
主人公側がほとんど盤石である分、ヒロイン側に危難が迫ってきた感がありますが、しかしもちろん黙って襲われる二人ではありません。二人がそれぞれの才を活かし、窮地を脱する姿は、こちらも痛快であります。(そしてそんな中でも互いを突っつきあう姿がまたおかしい)
さて、その一方で、宗矩による会津加藤家潰しの陰謀が進行し、さらに柳生左門の処遇を巡る暗闘がいよいよ抜き差しならない展開となります。
特に後者は、ちょっとこれはどうなってしまうのだろう、と唖然とする形で終わるのですが――色々な意味で宗矩の運命が気遣われる次巻が、今から楽しみです。
『勘定侍 柳生真剣勝負 七 旅路』(上田秀人 小学館文庫) Amazon
関連記事
上田秀人『勘定侍 柳生真剣勝負 一 召喚』 柳生家の秘密兵器は大坂商人!?
上田秀人『勘定侍 柳生真剣勝負 二 始動』 もしかして最強の主人公、いよいよ活動開始!
上田秀人『勘定侍 柳生真剣勝負 三 画策』 いよいよ始まる柳生家改革――マイナスからのスタート?
上田秀人『勘定侍 柳生真剣勝負 四 洞察』 祝宴を守れ! 前代未聞の「戦場」
上田秀人『勘定侍 柳生真剣勝負 五 奔走』 広がりゆく一夜と柳生の溝
上田秀人『勘定侍 柳生真剣勝負 六 欺瞞』 変わらない武家と一年先の武家との対立
| 固定リンク
