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2023.07.23

梶川卓郎『信長のシェフ』第35巻 動くか秀吉 ケンと勘兵衛の和睦交渉

 ついに本能寺に向け動き出した光秀。光秀の真意を悟り、止めるために奔走するケンと、ケンが己の意図を察知したことに気付き、阻もうとする光秀の、静かな攻防戦が始まります。そしてケンは、高松城を攻略中の秀吉に全てを打ち明け、協力を仰ぐのですが――いよいよ歴史が動き始めます。

 本能寺の変を未然に防ぐため、最後の現代人・望月に会いに土佐に渡ったケン。望月との再会には意味は(今のところ)ありませんでしたが、しかしそこでの経験から、初めてケンは光秀が信長弑逆に至る思考を理解することになります。
 そして光秀を阻むべく、ただ一人動き始めるケン。自分が京に戻るまでに、何とか信長に事態を知らせようとするケンですが、しかし相手は屈指の智将・光秀であります。逆にケンが謀反を察知したことを悟った彼は、ケンを阻むべく、様々な布石を打ち……

 と、ケンと光秀の水面下の戦いが始まった本能寺の変前哨戦。しかし既に一大軍団を擁している光秀に対しては、ケンは分が悪いとしか言いようがありません。ここでケンが頼ることとしたのは――秀吉。
 考えてみれば、この後の歴史を鑑みてだけでなく、ケンがこの時代に現れた直後からの付き合いである秀吉はこの事態を――そしてそれを知るケンの正体を明かすのに、最も相応しい人物というべきでしょう。

 もちろん、話したとしてもすんなりとはいかないものの、秀吉もただものではありません。かつて信長が語った天下布武後の計画を思い出し、光秀が十分に謀反を行う可能性があると理解した彼は、ケンの言を容れ、京への帰還を決意します。いわば史実よりも早い中国大返し――ここに歴史は大きく変わることになりますが、しかし問題があります。

 そもそもこの時秀吉は、毛利の備中高松城を攻略中。史実では、高松城を挟んで膠着状態が続き、その打開策という形で毛利と和睦し、大返しを行ったわけですが――史実より早いこのタイミングでは和睦を結ぶのは難しい。それでも待ってはおれぬと秀吉が撤退を開始したため、毛利側が勢いづいてしまったのであります。

 ここで毛利の追撃を阻むよう命じられたのはケンと黒田官兵衛のコンビ――これまで作中で顔見せはしていましたが、ケンとは初対面の官兵衛。はじめはケンを胡散臭いヤツと信用せず――と何だか懐かしいノリであります。
 それでも何とか毛利方との、停戦交渉に持ち込むケンですが、しかし相手は毛利の心とも称される難物・小早川隆景。これに対してケンが繰り出したのは――お弁当!?

 と、最近は状況に流されていた感もあったものの、ついに自分の意志で歴史を動かし始めたケン。そしてこの備中高松城での和睦交渉も、初期のノリを思わせる、思いも寄らぬ料理とそれを食べる人間の情(そして歴史秘話と言いたくなるような意外な展開)が絡み合って実に楽しく、この巻のクライマックスといってよいでしょう。
(撤退開始前に、密かに用意していたFSRを秀吉に差し出すのも、その用途も相まってシビレます)


 しかし、如何に一つの局面を打開したとしても、変えなければいけないのは歴史の巨大な流れ。いやそれ以前に、直接の相手はあの光秀であります。秀吉を動かしただけでなく、様々な形で信長に急を知らせ、光秀を阻もうとするケンですが、もちろん光秀が黙っているはずもありません。
 ここに繰り広げられるのは、ケンと光秀の頭脳戦とでもいうべき展開。備中で再会した楓を進物の使者に仕立てて京に送るケンですが、光秀は家康警護を口実に京の守りを固め――と、丁々発止の駆け引きがたまりません。

 そしてここで久々に登場した楓ですが――織田家の忍びである彼女も、ケンとは長いつきあいであります。そしてケンには複雑な感情を抱いてきた楓ですが――ここにきて彼女のケンに対する想いが、改めてクローズアップされることになります。
 この辺り、物語も終わりに近づいているのだな、と感慨深くなりますが、そんなこちらの感慨を(そして楓の想いを)ブチ壊すように「やはり贈り物といえば○○だと思うんです」とか言い出すケンは、最後の最後まで変わらないような気が……

 それはさておき、この先も続くケンと光秀の頭脳戦の中で、楓の役割はまだある様子。いよいよ本能寺目前、次巻も波乱の予感です。


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