平谷美樹『貸し物屋お庸謎解き帖 五本の蛇目』
だいわ文庫での復活から早くも第三作目、白泉社招き猫文庫からは通算第七作目の『貸し物屋お庸』の登場です。奇妙な日常の謎から背筋が凍る怪異譚、そしてお庸本人の謎まで、江戸のレンタルショップを舞台に、バラエティに富んだ五つの物語が展開します。
「無い物はない」が謳い文句の貸し物屋・湊屋の両国出店を取り仕切るのは、可愛い顔に男勝りの荒っぽい口調の娘店主・お庸。口は悪いけれどもおせっかいで情に厚い彼女は、不審な依頼があればその背後を探り、困っている人間がいれば一肌脱いで――と、今日も今日とて忙しい日々を送っています。
そんなある日、お庸の店を訪れたのは、蛇目傘を五本も貸してほしいという若い男。客に貸すというその理由に何やら不自然なものを感じたお庸は、店で雇っている追いかけ屋――不審な依頼者の後を追いかけ、その依頼の真偽を探る役――に、男の後を追わせるのでした。
はたして、男が向かったのは店などではなく、とある空地の掘っ立て小屋。男は、その中に潜む何者かに五本の蛇目傘を渡したようなのですが――さて、一体そこで誰が何のために五本の蛇目を使おうとしているのか?
いち早くその用途に気付いたお庸ですが、しかしそれは騒動のほんの始まり。事態を収拾するため、お庸と仲間たちは奔走するのですが……
そんな表題作「五本の蛇目」を含め、本作は全五話構成。
新年早々、能管を探していると湊屋の本店と市中十二の支店全てに次々と現れた謎の老翁。並の人間では不可能な行動を取る翁の正体とその目的をお庸が追う「能管の翁」
意中の茶屋娘を落とすために魚屋になると、てんびん棒を借りていった商家の若旦那に指南をすることになった出入りの魚屋。しかし魚屋が実は若旦那に懸想していたため、ややこしいことになる「魚屋指南」
江戸中に吹き荒れた大風の後、猿を借りに来た男の正体が馬方だと推理したお庸。しかし猿を必要とする理由は想像を絶する奇怪なもので――という「野分の後」
お庸が通う湯屋を監視する謎の男女の正体が、以前からお庸を狙う陸奥国神坂藩の手の者と見抜いた湊屋の主・清五郎。ついにお庸の謎の一端が明らかになる?「湯屋の客」
このように、これまで同様、バラエティーに富んだ内容ですが、やはり面白いのは、お庸が挑む事件の中には、超自然現象が関わる事件が少なからずあることでしょう。
これは以前にも触れましたが、同じ作者で同じレーベルの『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末』が、どれほど奇怪な事件に見えようと、全て合理的に解決できるものであったのに対し、こちらのシリーズでは、本物の(?)亡魂や妖が関わる事件が含まれているのです。
時には、それはちょっと反則では――と言いたくなるような展開がないでもありません。しかしそれだけで終わらず、そこからさらに謎解きが用意され、そしてお庸がロジカルに事態を収拾することは、どのエピソードも共通です。その意味で、変格の時代ミステリとして楽しめることは間違いありません。
本作ではどのエピソードが該当するかは述べませんが、ぜひ実際に読んでみて、「えっ!?」と驚いていただきたいと思います。
そしてまた印象に残るのが「魚屋指南」であります。意中の娘に「魚屋のような粋で鯔背な男が好き」と言われて魚屋を目指す世間知らずの若旦那・精一郎を中心としたドタバタものに見えるエピソードですが、実はこれが切ない恋愛もの。
実は指南を頼まれた魚屋の勝之介は、精一郎を密かに慕っていた菊華、つまり男を愛する男。若旦那の近くにいられるのは嬉しいけれども、しかしそれは別の女のため――と、決して打ち明けられない想いに、勝之介の心は千々に乱れることになります。
もちろん、困っている人間を黙ってみていることができないお庸は、何とか丸く納めようとするのですが、しかし事が人間の内面だけに関わるものだけに彼女も踏み込むことができず……
だいわ文庫でリスタートしてからの新レギュラーである、陰間の綾太郎と陰間長屋の面々。ある事件でお庸と知り合って以来、彼女に惚れ込んだ綾太郎と仲間たちは、両国出店の追いかけ屋としてお庸に協力してきました。
時代小説に陰間が登場することは少なくありませんが、レギュラーとして――それもコミカルなギャグ要員としてでなく――登場するのは珍しく、独自の視点を持つ綾太郎たちの存在は、貴重なアクセントといえます。
このエピソードの勝之介は長屋の住人ではありませんが、同じ性的指向を持つ人間。お庸メインでは描けない(?)秘めた恋の悩みを描く物語の主人公として機能していたと感じます。
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