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2023.07.17

永尾まる『猫絵十兵衛 御伽草紙』第23巻 人情・猫情・妖情そして旅情の原点回帰

 あのコンビがついに帰ってきました。約三年ぶりの登場となった『猫絵十兵衛 御伽草紙』最新巻であります。江戸を離れ、北への旅に出た二人が、新潟で、佐渡で、様々な人情・猫情・妖情に出会います。そして明かされる、ニタの意外過ぎる過去(?)とは……

 この世ならざるものを見る力を持つ猫絵師の十兵衛と、強大な力を持つ元猫仙人のニタ――と書くとなにやら物騒ですが、至ってマイペースな二人。これまで江戸を中心に描かれてきたこの二人の物語は、前巻の終盤から大きく趣を変えることになります。
 江戸からふらりと旅に出て、越後までやってきた十兵衛とニタ。そう、この巻では、越後、佐渡を中心に、二人が旅の最中に出会う様々な出来事が描かれることになります。

 前巻のラストでは、越後の新潟湊で遊郭から足抜けしてきた娘・おけいと出会った二人が、彼女を助けて遊郭の主・二ツ岩の団三郎狸(この第23巻の表紙を艶姿で飾っております)と対峙。すったもんだの末、おけいと団三郎と共に、佐渡に渡ることに――という物語「湊猫」が描かれました。
 そしてこの巻の冒頭に収録された「小木湊猫」は、その後編というべき内容――育ての親である老爺が病となり、彼に薬を届けるために足抜けしたおけいが語る、とある昔話が物語の中心となります。

 このエピソードでは、「湊猫」を読んだだけではわからなかった意外な真実(それも二段構えの)にまず驚かされますが、それ以上に印象に残るのは、やはり切々と描かれる「情」の存在でしょう。
 本作は作中の随所で「歌」が印象的に使われていますが、このエピソードでも、おけさ節の元になったというおけいの唄に乗せて切々と描かれる、種族を超えた「情」の姿が、感動を呼びます。
(ただ、ラストの捻りは、これまでの描写的に、ん? という気がしないでもありませんが……)


 さて、その後も二人の旅は続きます。

 団三郎狸が語る、佐渡の国産み神話にまつわる、ある猫の物語「佐渡の猫石」
 毎年雪の降る時期に、老夫婦のもとにやってくる不思議な子供と二人の交流「雪猫」
 ニタが見せたいというとっときを求めて山中にやってきた十兵衛の受難「さかべっとう猫」
 子供時代の十兵衛が、友達のために初めて「猫絵」を描く「猫の絵」
 猫絵で知られる上野国石時見家の若き殿様が、善光寺参りに向かう途中の旅で二人と出会う「猫絵の殿様」「猫絵の殿様 弐」
 琵琶法師に身をやつした老猫が語る奇岩の由来の物語「半過の岩鼻猫」

 どのエピソードもこれまで同様、時に切なく、時に温かい「人情」「猫情」「妖情」を存分に描くのですが――そこに「旅情」が加わるのですからたまりません。
 誰もが憶えがあるであろう、旅に出た時の不思議な解放感と軽い興奮、そしてそこはかとない寂しさ――そんな味わいが、本書のエピソードには漂っています。

 もっともその中で思いもよらぬ変化球が飛んでくるのも、また本作らしいところでしょう。たとえば「佐渡の猫石」は、伊邪那岐命と伊邪那美命まで遡る壮大な物語ですが、そこに顔を出すのはなんと……
 いやお前、そんな頃から――と、いきなり広がったスケール感に絶句するとともに、何ともすっとぼけた「真理」が描かれるオチが痛快ですらある一編です。


 ちなみにこの巻のあとがきによれば、前巻ラストからの「越後篇」「佐渡島篇」は、かなり以前から――それこそ本作の成立前、というか本作の成立に関わる形で構想されていたものであるとのこと。その意味では、この巻の内容は本作の原点回帰と言えるのかもしれません。

 冒頭に触れたように本書はほぼ三年ぶりの新刊ですが、その間、「ねこぱんち」誌での連載もストップした状況と、愛読者としては非常に心配になる期間でした。
 しかしこの巻では、前巻にほとんどなかったあとがきもきっちりと(4ページも)あり、そして本書の刊行と時を同じくして「ねこぱんち」誌の連載も再開――と、嬉しい限りです。

 どうか原点回帰したその先も、ずっと十兵衛とニタの物語を描いてほしい――本書を読んで、心からそう感じた次第です。


『猫絵十兵衛 御伽草紙』第23巻(永尾まる 少年画報社にゃんCOMI) Amazon

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