« 出口真人『前田慶次かぶき旅』第13巻 | トップページ | 羽生飛鳥『揺籃の都 平家物語推理抄』 »

2023.07.30

東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第11巻

 既に連載の方は先日完結しましたが、単行本の刊行は続く『警視庁草紙』。この第11巻では、実に正続合わせて足かけ5巻に渡り展開されてきた「残月剣士伝」がついに完結します。そして続いて描かれるのは「幻燈煉瓦街」――銀座煉瓦街で起きた、奇怪な密室殺人の真相とは……

 撃剣会を巡る騒動も一段落した中、その撃剣会の場で、互いに幕末に死に損ねた者同士、激しく刃を交える兵四郎と藤田。この一戦が痛み分けに終わった後、警察は撃剣会の仕掛人である加賀四人衆と謎の雲水二人組を捕らえようとするのですが――藤田の前で笠を取った雲水の一人の正体は何と!?

 というわけで、この巻の冒頭でクライマックスを迎えることとなった「続残月剣士伝」。そのラストで藤田と刃を交えるのは、これまで回想シーンで幾度かその姿を見せたあの男――ここで繰り広げられるある意味頂上決戦は、この章の結末を飾るに相応しいものであったというべきでしょう。
 兵四郎たちの仕掛けも最後の最後で功を奏して、まずは大団円であります。
(ただ、もう一人の雲水の正体の明かし方は、油戸巡査から語らせる原作の方が断然良かったかと……)


 そして河竹黙阿弥が登場する番外編兼プロローグというべき「戯作鰻遊録」を経てスタートする新章は「幻燈煉瓦街」。煉瓦街といえば、明治の銀座を飾った煉瓦街ですが、後に大正の大震災で姿を消し、今ではほんの一部のみ名残を残す幻の街。そんな街に相応しい、奇怪な物語であります。

 銀座で評判を取るのぞきからくり一座――講談師の語りに合わせて壁の穴から中を覗くと、絵芝居が見られるというこの見世物にかけられていたのは、かつて南部藩のものであった尾去沢銅山を巡る、新政府の醜聞を糾弾するかのような物語。
 そしてそれと時を同じくして、夜な夜な誰もいない銀座の路地から三味線の音がするという通報に、調査に向かった巡査たちが発見したもの――それは、のぞきからくりの会場で、首を裂いて死んでいた男の死骸だったのであります。

 しかしその場は完全な密室であったにもかかわらず、巡査たちが踏み込む直前までそこから響いていたのは三味線の音。さらに死体は死後数日経ったものであったにも関わらず、事前に死体を運び込んだ様子もなく、また初めからそこに置いておこうにも、場所は衆人が覗き込むのぞきからくり――しかもからくり師一座にはアリバイがあったたというではありませんか。

 そしてこの奇怪な密室殺人をさらにややこしくさせるのは、死んでいたのが、当の尾去沢銅山を南部藩から「買い取った」男であったことであります。かくてこの男のバックにいた人物、元・大蔵大輔の井上馨が川路大警視のもとに怒鳴り込み……


 と、密室殺人+明治政府の高官の醜聞という実に『警視庁草紙』らしい、というより山風明治ものらしい展開となってきたこのエピソード。この巻に収録されているのはその前半部分ということもあり、謎と問題の提示編という印象ですが、さて、ここからどのように展開していくのか。
 そしてこのエピソードの次に待つのは最終章(!)と、いよいよ終わりが見えてきましたが、もちろん最後まで見届けたいと思います。


『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第11巻(東直輝 講談社モーニングコミックス) Amazon

関連記事
東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第1巻 漫画として生まれ変わった山風明治もの第1作
東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第2巻 敵たる「警視庁」こそを描く物語
東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第3巻 前代未聞の牢破り作戦、その手段は!?
東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第4巻 天地逆転の悲劇にも屈しない者
東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第5巻 原作のその先の、美しい結末へ
東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第6巻 追い詰められた兵四郎 悪党に転向!?
東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第7巻 剣なき時代の剣士たちの物語、開幕
東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第8巻 兵四郎先生、女剣会に関わる!?
東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第9巻 「残月剣士伝」完結! そして「続……」へ?
東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第10巻 真剣勝負! 幕末に死に損ねた男二人

|

« 出口真人『前田慶次かぶき旅』第13巻 | トップページ | 羽生飛鳥『揺籃の都 平家物語推理抄』 »