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2023.07.11

黒崎リク『呪禁師は陰陽師が嫌い 平安の都・妖異呪詛事件考』

 今なお人気が衰えない陰陽師ものですが、本作はその中でも少々変わり種――というより正確には陰陽師ものではなく呪禁師もの。呪禁の技を操る外法師の青年・竜胆が、若き陰陽師・賀茂忠行に引っ張り回されて都を騒がす怪事件に挑む、いささかユニークな物語です。

 京の外れの化野で暮らす青年・竜胆。腕は良いけれども人付き合いが苦手の彼は、育ての親であり、数年前に姿を消した千種から伝えられた技で人々を癒す薬師であります。
 しかし彼が師から伝えられたのは薬師の技だけではありません。実は呪禁師の末裔だった千種から、今では禁忌とされている呪禁の技を伝えられている竜胆ですが――過去のある事件がもとで、彼は呪詛を行うことを厳しく自分に禁じていたのでした。

 そんなある日、竜胆のもとを、賀茂忠行と名乗る陰陽寮の学生が訪ねてきます。物の怪に憑かれたという権中納言のために祓を行ったものの、その最中に権中納言の容態が急変し、もがき苦しんだ末に息を引き取ったという忠行。その責任を問われているという彼は、真相を突き止めようとするも陰陽寮に味方がおらず、腕利きの外法師として知られる竜胆を頼ってきたというのですが……


 そのおどろおどろしい字面もあってかあまり良いイメージのない、いやむしろ悪役が使う技という印象すらある「呪禁」。しかし元々は道教由来のむしろ呪いに対する防御的な術であり、奈良時代には典薬寮所属の呪禁師・呪禁博士・呪禁生が設置されていたという、歴とした国の機関だった過去があります。
 尤もその後、厭魅や蠱毒との関わりから呪禁が危険視されるようになり、陰陽道の台頭もあって、取って代わられるような形で制度は廃止されてしまったのですが――こうした史実を背景に、本作は展開されることになります。

 この歴史を呪禁師側から見れば、「陰陽師が嫌い」というのも無理はないように思えますが、その呪禁師の流れを組む主人公・竜胆が、後世にまで名を残す陰陽道の大名人(の若き日)である賀茂忠行と心ならずもコンビを組んで、様々な呪詛絡みの事件に挑むのが本作であります。
 しかし上記の因縁に加えて、竜胆は非常に大雑把に言えばいえばいわゆる陰キャ(愛宕山の天狗やら信太の森の葛葉狐やら、人間以外の友達はいるのですが……)で世間知らず。その一方で、忠行の方は口八丁の上に、竜胆を利用する気まんまん――と、何か起きない方がおかしいわけで、物語は、都で起きる怪事件に、忠行に引っ張り出された竜胆が挑むのが基本スタイルとなります。

 この二人のちょっとおかしなやりとり(というか忠行の一方的な振り回し方)が本作の特色の一つではありますが、しかし副題の「妖異呪詛事件考」が示すように――そして呪禁師である竜胆が絡むことからわかるように、本作を構成する全三話は、非常にシリアスな内容が並びます。(特に第二話は、子供好き・猫好きは要注意と事前に言っておいたほうがよいほど、かなり辛い内容であります)
 そもそも竜胆自身、法では禁じられた呪禁師ということで表に出にくい身分であり、また上で述べたように、基本的に忠行に利用される立場も相まって、本作の読後感はちょっと重いことは否めません。

 それでも本作に大きな救いとして存在するのは、決して人を呪うという行為を肯定しない、竜胆の強く真っ直ぐな心でしょう。
 本作では、呪詛は弱き者が縋る最後の手段として描かれながらも、しかし決して人を救わない――いや、それどころか苦しむ者をさらに苦しめるものであると、竜胆はそれ以外の道を求めます。そしてそんな彼の姿は、いつしか忠行の心を大きく動かすのであります。


 物語的には、第三話に同じく呪禁師であり、竜胆のことをもよく知る道摩が登場(ちなみにこの道摩、やっていることは明らかに許せぬことながら、単純に悪人とは評しがたい個性の持ち主なのが面白い)。
 数年前に竜胆の前から姿を消した千種の真実が語られ、物語は大きな転機を迎えることになります。

 敬愛する師の真実を知りながらも、なおも真っ直ぐ歩もうとする竜胆の、そして忠行のこの先が気になる――特に序の描写を読むと――のですが、刊行から約二年半経つ本作。それでも、続編を今でも読みたい作品であります。


『呪禁師は陰陽師が嫌い 平安の都・妖異呪詛事件考』(黒崎リク 宝島社文庫) Amazon

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