真じろう『剣仙鏢局 ケンセンヒョウキョク』第3巻
鏢局に命を救われ、自らも鏢師となった亡国の王子・セツカの冒険譚の完結編であります。祖国を滅ぼしたレン国の覇業に対する周辺国の反抗もいよいよ激しくなる中、許嫁であったシラハが政略結婚させられることを知ったセツカは、鏢局の仲間たちと奪還に臨むのですが……
幼なじみのレン国の王子・スイレンによって瞬く間に祖国・ジャン国を滅ぼされ、コクヨウ率いる花乱鏢局によって救出されたセツカ。いつかスイレンの掌中にあるシラハを救うため、セツカは鏢局に加わり、鏢師として成長していくことになります。
そんな中、かつてジャン国の軍師であったカオラオの故郷へ、荷を運ぶ依頼を受けた鏢局。その任務に加わったセツカは、武林を追放された達人たち・爪甲山北斗七星のうち二人の襲撃を受けることになります。
実は荷の中身を偽り、レン国に抵抗するための新兵器を運ぼうとしていたカオラオ。偽られたことに憤りながらも、セツカたちは任務を全うするために、実力で遙かに勝る北斗七星に挑むことに……
という前巻からのエピソードから始まるこの最終巻。一見鏢局としての仕事を描く単独エピソードのようですが――しかしその背景となるのはレン国の覇業と周辺国の反抗であり、そして妨害する相手はコクヨウとは因縁の宿敵である蛇牙鉄屍率いる北斗七星と、物語の縦糸と深く関わる内容であります。
江湖に暮らす人々を結ぶ稼業である鏢局と、国々の興亡は一見無関係に見えます。しかし日々の生活と政治が切っても切れない関係にあるように、両者の繋がりは決して無視できるものではありません。そしてその繋がりを象徴する存在であるセツカを通じて、物語はクライマックスに向かって突き進んでいくことになります。
セツカたちが運んだ武器によるカオラオたちの反抗と連携して、レン国に激しく抵抗するラカン国。そのラカン国からの婚儀の求めに、スイレンはシラハを送り出すことになります。シラハがラカン国の将軍と政略結婚する――その報を聞き、セツカはコクヨウたちに、シラハを「運び出す」よう依頼し、コクヨウもそれを受けるのでした。
そしてラカン国に向かうシラハの一行が宿を取る天狼客桟に、奇想天外な罠を仕掛けるコクヨウたち。しかしラカン国がシラハの輿入れを望むのに裏があることを知ったスイレンは、蛇牙鉄屍以下北斗七星を送り込んでいたのであります。
かくて天狼客桟を舞台に、シラハ奪還作戦と花乱鏢局vs北斗七星の総力戦が展開することに……
先に触れたように、スイレンの下に残されたシラハを救い出すことを目的に、鏢師となったセツカ。そのことを考えれば、本作全体のクライマックスとして、シラハ奪還を持ってくるのは当然というべきでしょう。
それだけでなく、実はシラハの身には秘密が隠されており、そしてそれこそはコクヨウと蛇牙鉄屍の深い因縁に繋がりが――という形で、コクヨウたちに仕事以上の戦う理由(と見せ場)を与えているのも巧みなところであります。
さらにシラハの婚儀の相手にも、セツカとは――ある意味この物語の根源に繋がる――因縁があったりと、幾重にも張り巡らされた糸が絡み合い、結びついたクライマックスの盛り上がりは素晴らしいもので、この辺りは原作者の力量というものだろうと、感嘆した次第です。
(北斗七星の面々も、全て描かれたわけではないにせよ、それぞれにはぐれ者となった理由があり、単純な悪役ではないように設定されているのもまた唸らされます)
というわけで大いに盛り上がるこのクライマックスですが、やはり一巻(といっても分量的には実は二巻分近くあるのですが)で終わるというのは、少々、いやかなり惜しいという印象は否めません。
もう少しだけ達人同士の武功のぶつかり合いを見ていたかった、という思いがあるのはもちろんですが、結局のところ、セツカとスイレンのドラマがほとんどニアミス状態のままで終わってしまったのは、やはり残念ではあります。
もちろん、結末でセツカが至った境地は、彼が既にこのドラマに一つの回答を得ているのを示すものではあるのですが――おそらくは本作が架空世界を舞台にしている最大の理由である――スイレンの行動、スイレンの想いと、彼が直接対峙するところを見たかった、と感じます。
鏢局という、武侠ものではお馴染みの、しかし一般には知られていない題材を扱った作品だけに、もう少し長く読んで見たかったというのも、正直な想いなのです。
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