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2023.08.15

月村了衛『コルトM1847羽衣』

 現代を舞台とした骨太のアクションを得意とする作者ですが、時代小説の分野においてもユニークな作品を発表してます。本作はコルトM1847を背負った女渡世人が、失踪した想い人を追って渡った佐渡で、謎の邪教集団と対決するという、一大伝奇アクションであります。

 時は一八五二年、将来を誓い合った想い人・青峰信三郎を探して佐渡に現れた女渡世人・羽衣お炎。数年前に突如姿を消し、いかなる理由か無宿人の権三として金山送りになったという信三郎を追ってきたお炎ですが――しかし佐渡に上陸して早々、謎の一団の襲撃を受けることになります。

 多勢に無勢、窮地に陥ったかに見えるお炎ですが――そこで彼女が取り出したのは、コルトM1847ウォーカ。最新式のシングルアクションリボルバーの威力で、お炎は敵を薙ぎ払うのでした。
 かつて信三郎を探して諸国を旅する途中、長崎の豪商・四海屋の命を救ったのがきっかけで、その知遇を得たお炎。四海屋はお炎にアメリカから流れてきたガンマンを紹介し、彼を師に腕を磨いたお炎は、四海屋から譲られたコルトM1847を背に、佐渡に乗り込んできたのであります。

 佐渡で出会った元軽業師で手裏剣の達人であるおみんを乾分にして、探索を続けるお炎。そこで二人は、佐渡の人々の間で「オドロ様」なる謎の存在が崇められているのを、すぐに知ることになります。
 金山で働く者たちの間から始まったというオドロ様信仰――今では奉行所も手を出せぬほどの力を持つその正体を探る二人に迫る危機。弾も尽き、窮地に陥った彼女たちは、そこに駆けつけた四海屋の援軍――表に出せない荒事を扱う「玄人」衆に救われるのでした。

 そして彼らの助けで金山に潜入し、オドロ様の正体を知るお炎。驚くべき真実に衝撃を受けながらもオドロ様と対決する決意を固めた彼女は、オドロ様とその宮司を名乗る蝉麻呂、そして佐渡で暗躍する薩摩武士たちを相手に戦いを開始します。
 信三郎の行方は。オドロ様が起こすという奇跡の正体は。そしてオドロ様と蝉麻呂、そして薩摩武士たちは佐渡で何を企んでいるのか。驚くべき陰謀の正体を知ったお炎たちは、企てを阻むために決戦を挑むことに……


 本作の前に作者が「コルト」をタイトルに冠した「コルトM1851残月」――こちらは時代小説とコルトという取り合わせながら、ジャンル的にはノワールものというべき内容の作品でした。そのため、本作も初めは同様の趣向の作品かと思いましたが――いざ読んでみれば直球ど真ん中の時代伝奇活劇であったのには大いに驚き、かつ喜ばされました。

 姿を消した恋人、鉱山で進む陰謀、謎の邪教集団、大藩の暗躍等々、本作を構成するこれらは、正直なところ、オールドファッションな時代伝奇ものの題材という印象があります(特にオドロ様の「力」の源など)。
 しかし本作はそこに銃を――それも古色蒼然とした短筒などではなく、一尺三寸もの長さの最新式のコルトを――手にした女渡世人(しかも天女の二つ名の通り、白の被衣がトレードマーク!)を投入してみせたのが素晴らしい。

 かくてこれまでにないアクションと戦いを展開する本作は、見事に時代伝奇小説をアップデートさせてみせたといえるでしょう。


 しかし本作で見逃せないのは、敵も味方も、中心となるのが武士ではない、いやそれ以前にこの世の裏街道を行く者たちであることでしょう。

 渡世人のお炎はもちろんのこと、彼女の頼もしい助っ人となる玄人衆は、表の社会では生きられない者たち――人別もなく、金であらゆる仕事を請け負うアウトローです。
 一方、そんな彼女たちの敵(の一つ)であるオドロ様の信者たちの中心となるのは、金山に送り込まれた無宿者たち――まさしく日の当たらない場所で生きる者たちなのです。

 そんなある意味同族と、お炎は何故、何のために戦うのか――もちろん、世のため人のためという「ありきたりな」理由であろうはずがありません。そしてそれは、敵の中心人物である蝉麻呂、さらにはオドロ様がそれぞれ終盤に明かす痛切な想いとも、重なり合うものなのであります。

 そんな両者のぶつかり合いを描いてみせることによって、本作はド派手な活劇を描きつつも、そこに中にも深みを備えた物語として成立している――そう感じます。


 古典的な題材を用いつつも、派手なガンアクションと同時に、哀しくも熱いアウトローたちの意地の激突を描いた秀作であります。


『コルトM1847羽衣』(月村了衛 文春文庫) Amazon

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