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2023.08.22

『アンデッドガール・マーダーファルス』の時代

 アニメ版の『アンデッドガール・マーダーファルス』の「ダイヤ争奪編」もいよいよクライマックスですが、この物語の舞台は1899年と設定されています。様々な作品から集まったキャラクターたちは、この時期、それぞれの作中ではどのような状況にあったのでしょうか。野暮を承知で紹介いたします。

○19世紀末という時代
 まず本作全体の舞台背景について触れておきましょう。19世紀末は一言でいえば帝国主義の時代――欧米列強、そして日清戦争で勝利した日本といった近代国家が、世界各地に植民地を獲得し、そしてそれを巡って争っていた時代です。
 また、科学技術という点で見れば、19世紀は近世に発見されていた様々な現象が体系化されました。また、19世紀末にはディーゼル機関やX線、ブラウン管など、現代にまで繋がっていく様々な発見が行われています。

 このように近代の名の下に様々なものが不可逆的に変化していく姿は、本作の怪物たちの境遇に重なって見える――というのは牽強付会でしょうか。


○シャーロック・ホームズ
 ホームズの原典の作中では、1899年は『シャーロック・ホームズの帰還』所収の「犯人は二人」が起きています。同書は1894年に起きた「空き家の冒険」に始まる短編集ですが、ホームズが空白の三年間から帰還した時期――いわばその活動の後期にあるといえます。
 ちなみに1891年には、「最後の事件」の中で、ホームズモリアーティ教授とともにライヘンバッハの滝に消え、教授はここで命を落としたと思われたのですが――というわけで、八年越しの因縁が描かれることになります。
 また、この1899年を舞台としたガイ・アダムスのパスティーシュ『シャーロック・ホームズ 神の息吹殺人事件』では、ホームズは名だたるオカルト探偵とともに、アレイスター・クロウリーと対決しております。


○アルセーヌ・ルパン
 1899年、ルパンは『怪盗紳士ルパン』所収の「アルセーヌ・ルパンの逮捕」で初めて逮捕されることになります。これは1901年という説もありますが、いずれにせよルパンが本格的に活動し始めたのが1894年が舞台の『カリオストロ伯爵夫人』であることを考えれば、まだまだ派手に売り出し中の時期であったことは間違いありません。
 ちなみに逮捕された翌年には、「遅かりしエルロック・ショルメス」で、イギリスの名探偵と対決していますが、まあ上の人とは(今は)別人ということで……


○オペラ座の怪人
 原作では年代設定は明示されていない『オペラ座の怪人』ですが、アンドリュー・ロイド・ウェーバーのミュージカル版は1881年(同作の映画版では1879年)の出来事となっています。
 つまり本作の時点ではファントムは失恋の痛手を抱えながらなおもオペラ座に潜んでいたことになりますが――ルパンに外の世界に引っ張り出されたのは、案外よい気分転換になっているのかもしれません。


○カーミラ
 やはり原典では年代設定は明示されていませんが、かつてのカーミラの肖像画が1698年に描かれているという設定があるので、まあ本作の時点では齢三百歳近いのでしょう。原作でも女の子大好きなのは有名な話です。


○ヴィクター
 フランケンシュタイン博士の手記を元に作られた人造人間であって、フランケンシュタインの怪物その人ではないヴィクター。『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』のラストシーンは1799年と本作のちょうど百年前に当たるため、それなりの時間が流れていることになります。
 一方、映像化として有名なユニバーサル映画の『フランケンシュタイン』は、本作と同じ年の出来事なのがちょっと面白いですね。


○切り裂きジャック
 数少ない実在の人物その一であるジャックですが、1888年に少なくとも五人の女性を殺したこの人物はいまだにその正体は一切不明となっています。
 ちなみに完全に同時期の人間であるシャーロック・ホームズとは、エラリー・クイーンの『恐怖の研究』などのパスティーシュの中で対決していますが、本作では?


○アレイスター・クロウリー
 実在の人物その二のクロウリーは、本作の前年の1898年に、イェイツなど著名人も多数参加していた魔術結社「黄金の夜明け団」に参入、色々あって1900年には追い出された時期に当たります。さすがに警官を何人もバンバン殺したりなどはしませんでしたが、この後も色々と世間を騒がせ、「世界で最も邪悪な男」などと呼ばれてしまうなど、何かと毀誉褒貶の激しい生涯を送った人物です。


 と、いうわけで、各作品・各人物のファンには常識かとは思いますが、つらつらと書かせていただきました。
 なお、この記事の内容は、原作の描写やそこから私が推測したものである旨、ご承知おき下さい。

 なお、最後にもう一つ、この前年の1898年(「吸血鬼編」の舞台)は、有名キャラクロスオーバーの大先達というべきアラン・ムーアの『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』の作中で、怪人同盟が結成されています。
 作中では本作と共通するある人物がこちらでも暗躍しているのは、面白い偶然というか、いかにもやりそうというか……


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