坂ノ睦『明治ココノコ』第5巻
明治の世に復活した九尾の狐「たち」の戦いを描く物語も、この第五巻で完結を迎えることになります。ニゴリモノたちを操り、川路に深い恨みを抱く怪人・ナノラズと最後の決戦に挑むビャクと尾たちの戦いの行方は、ナノラズの正体とは、そして九尾の狐は真に復活するのか!?
かつて天狐に封印されて明治の世に不完全な形で復活、川路利良配下の妖狐邏卒隊として、己を見失った物の怪――ニゴリモノと戦ってきた元九尾の狐のビャクと尻尾たち。
浅草の漆黒の楼閣で周囲に災厄をばら撒いていた最後の尾・コクとの対決の末、ついに全ての尾を集めたビャクですが、コクの背後には、彼を使嗾していた真の敵――正体不明の「ナノラズ」というべき謎の怪人がいました。
ビャクと川路が二人がかりでも敵わず、辛うじてその場から脱するのがやっとであったほどの力を持つナノラズ。何故か川路に深い恨みを持ち、公務で海外に向かうこととなった川路を付け狙うナノラズに対し、雷神の力を持つ助っ人・藤田五郎を加え、ビャクと八尾は迎え撃つための体制を固めるのでした。
が、万全の体制で臨むかと思われたものの、敵に先手を打たれた形で異界「狭間」に引きずり込まれてしまった一行。敵の攻撃から川路を守るべく陣を固めたビャクたちの前には、ニゴリモノと化した恐るべき大物妖怪たちが現れます。
さらに迫るナノラズに対し、その正体を暴くべく、それぞれの力を振り絞るビャクと尻尾たちの、最後の戦いが始まることに……
かくてこの巻ほとんど一冊全てを使って描かれる、ナノラズとの決戦。その戦いの行方を左右する鍵であり、そして何よりも物語における最大の謎が、ナノラズの正体であることは言うまでもありません。
ビャクをも上回る強大な力を持ちながらも、単純な物の怪でもニゴリモノでもない。川路利良に深い恨みを抱くことから、どうやら元は人間らしいと思われるナノラズ――このナノラズが一体何者なのかは初登場時から大いに気になったところですが、ここで描かれるこの正体は、こちらの個人的な予想とは全く異なるものでした。
その予想の内容を語ってしまえば、そのままナノラズの正体を明かすことになるためにここでは伏せますが――その正体は「えっ」と少々驚かされると同時に、「なるほど……」と納得させられるものであったのは間違いありません。
そしてその正体を見れば、ナノラズもまた、これまで物語で描かれてきたニゴリモノたちと同様の――明治という新たな時代が巻き起こしたうねりの中に巻き込まれ、苦しんだ末に己を見失った存在であったと感じさせられます。そして一歩間違えれば、ビャクもまたそうなりかねないものであったとも。
しかしビャクはニゴリモノになることはなく、そしてその一方で、過去の己と同一の存在に戻ることもなく、新たな道を選ぶことになります。その結末は、これまでこの物語で描かれてきたものがあってこそなのでしょう。
正直なところ、これまでの妖目線から描かれてきた物語には違和感を感じないでもなかったのですが――結末に至り、(ナノラズとの対決を通じて)ビャクにようやく共感できるようになったと感じます。
せっかく登場した斎藤の出番が少なかったのは少々残念ですが、彼はこの先も続く、人間と妖の繋がりを引き継ぐ役目なのでしょう。そう、この先も妖は滅びることなく在り続けていく――そんな本作の結末は、大きな希望に満ちたものと言うべきなのかもしれません。
『明治ココノコ』第5巻(坂ノ睦 小学館ゲッサン少年サンデーコミックス)
関連記事
坂ノ睦『明治ココノコ』第1巻 明治の物の怪と対峙するもの、その名は……
坂ノ睦『明治ココノコ』第2巻 尾をなくした九尾狐とニゴリモノの間にあるもの
坂ノ睦『明治ココノコ』第3巻 突入、黒き楼閣 激突、黒白の狐
坂ノ睦『明治ココノコ』第4巻 崩れゆく漆黒の楼閣!! そして新たなる架け橋の男!?
| 固定リンク
