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2023.08.12

清音圭『化け狐の忠心』第1巻

 人間と異類のロマンスは古今を問わず多くの人々を惹きつけるものですが、本作もその一つ。戦国時代のとある国を舞台に、生真面目でお人好しな若武者と、人間に恨みを持つ強大な化け狐の間に、ちょっと変わったドラマが生まれることになります。はたして化け狐が抱くのは忠心か恋心か……

 時は戦国、とある城の落城の混乱の中で、封印から解き放たれた化け狐の玉藻。かつて人間に一族を滅ぼされ、その恨みから数々の国を傾けてきた彼女は、解放されたのをこれ幸いと、再び暴れ回ろうとするのですが――しかしそんな玉藻の前に現れた若武者・梅多直澄は、彼女を戦に巻き込まれた不幸な女性と信じ込むと、彼女を自分の城に連れ帰って住まわせるのでした。

 ひとまず、直澄の近くで周囲の目から隠れて――と考える玉藻ですが、愚直なまでに清廉で生真面目な直澄は、実の父や継母をはじめとする人々に疎まれ、密かに命を狙われる身の上でした。それを知った玉藻は、全く周囲を疑おうとしない直澄を守ろうと奔走するのですが……


 という基本設定の本作は、戦国時代のとある国を舞台としたファンタジー色の強い作品。人間の男性と狐の女性というのは、これはもう一千年以上前からの定番(?)ですが、本作の面白いところは、(今のところ)男性=直澄の方が、全く女性=玉藻が狐であると気付いていないところでしょう。
 ラブコメで、片方が度を超した鈍感で、相手の想いに気付かないというのは定番展開ですが、本作はそれに相手の想いだけでなく、正体までも気付かないという、二つのシチュエーションを重ね合わせているのが、何とも楽しく、切ないところです。

 想いを知られれば相手に拒まれるかもしれないどころか、正体を知られたら確実に相手に拒まれる――恋する相手に自分のことを知ってほしいというのは極めて自然な想いですが、それが叶わない、というよりその時が別れの時というのは、実に悩ましいところであります。

 もっとも、本作のさらに面白いところは、(少なくとも初めは)玉藻の側も直澄に恋心を抱いているわけではない点でしょう。というより、自分の食い物のはずがどうにも危なっかしい相手を、他の連中に取られぬように世話を焼いているうちに、どうにも気になるようになって――という、これも人間と異類の関係性では定番ではありますが、やはり良いものは良いというほかありません。

 そんな何ともくすぐったくも尊い、忠心と恋心のせめぎ合いが、本作の最大の魅力というべきでしょう。


 しかし、ただでさえその立場が危うい直澄の傍らに、化け狐がいるということが明らかになれば――直澄がその事実を知るか知らぬかを問わず――大問題であることは間違いありません。
 そんな危なっかしい状況の中で、また別の意味で危なっかしい二人の関係はどうなってしまうのか――鈍感美青年武士とツンデレ化け狐の行く末を見守りたくなってしまう物語であります。


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