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2023.08.09

モコ『化け絵 石燕妖怪噺』第1巻

 江戸時代の妖怪画といえば、まず真っ先に名前が挙がる鳥山石燕。本作は飛頭蛮の女性と暮らす老境の石燕が、様々な妖怪と出会いながら、その姿を絵に残していく、ユニークな連作漫画であります。

 江戸時代は妖怪という存在が一種のキャラクター化され、現代に通じる姿が確立していった時代と言えますが、その中で大きな役割を果たしたのが、絵師たちによるビジュアライゼーションであったといえます。そしてそんな妖怪絵師の筆頭に挙げるべきが、鳥山石燕であることは間違いないでしょう。

 市井に暮らして絵を生業とする狩野派の絵師(いわゆる町狩野)である石燕は十八世紀の中盤から後半にかけて活躍、当時の浮世絵界で大きな地位を占めるとともに、俳諧など他ジャンルとも積極的に交わった人物ですが――現在最も知られるのは、やはりその妖怪画においてでしょう。
 『画図百鬼夜行』『今昔画図続百鬼』『今昔百鬼拾遺』『百器徒然袋』の四作品に描かれた様々な妖怪たちは、恐ろしさだけでなく、微笑ましさや洒落っ気もある存在で、水木しげるにも大きな影響を与えたことを考えれば、後世の妖怪像を確立した一人といえるのではないでしょうか。

 そんな石燕だけに、フィクションの世界に登場する時は、かなりの高確率で、実際に妖怪を目撃していた、触れ合っていた――と描かれることになるのですが、本作もまたそうした作品の一つであります。

 ある月夜の晩、吉原で一夜を過ごした遊女・お遊が、夜になると首が伸びて寝床を抜け出す飛頭蛮(ろくろ首)であると知った石燕。お遊の境遇を知った石燕は、彼女を身請けして、共に暮らすことに――という基本設定で、以後石燕とお遊の前に次々と姿を現す妖怪たちとの交流が描かれることになります。
 面白いのは本作の石燕は既に老境に入っていることですが――史実では石燕が上に挙げた妖怪画を発表したのは六十代半ば、そんな年齢で石燕が妖怪を描くようになったのは、その時期から妖怪と出会うようになったからだ、というのは、なかなかに面白い解釈といえるでしょう。


 さて、そんな本作に登場する妖怪たちはといえば、冒頭の飛頭蛮に続いて、河童、人面樹、天井嘗、幽谷響、影女、蜃気楼、人魚、おとろし、毛倡妓、犬神・白児、人魂、天狗、古庫裏婆、鬼一口と――有名なものからそうでないものまで(もちろん石燕の妖怪画ファンには有名なものばかりですが)様々。
 正直なところ、一話8ページという分量のため、内容的にはかなりあっさり目ではあるのですが、時におかしく、時に恐ろしく、時に艶っぽく描かれる物語は、バラエティ豊かでなかなかに楽しめます。

 何よりも、物語の基調にあるのが石燕とお遊の仲睦まじい姿というのが、本作の印象を大きく陽性のものにしているといえるでしょう。


 先に触れたように、石燕の妖怪画は全四作、そこに収録された妖怪の数は二百を超えます。また、この巻では北川豊章(後の喜多川歌麿。ちなみに石燕が歌麿の師であるのは史実であります)がゲスト出演していますが、史実では石燕の周りにはまだまだ面白い人物がいます。
 この先何が描かれるのか、何を描くのか、楽しみにしたいと思います。


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