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2023.09.24

東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第13巻

 ついに漫画版『警視庁草紙』もこの巻で完結の時を迎えます。これまで明治史の裏側で丁々発止の戦いを繰り広げてきた兵四郎たちと警視庁の戦いは、如何なる結末を迎えるのか――明治史の、日本史の一大転機を背景に描く最終章「泣く子も黙る抜刀隊」であります。

 下野した西郷がついに鹿児島で決起し、お馴染みの面々が所属する警視庁の警視隊も抜刀隊と改名され、出撃を待つ頃――築地の海軍兵学校で行われる、からくり儀右衛門の軽気球の飛行実験を見物に来ていた兵四郎とお蝶たち。
 しかしそこで警察に正体が露見してしまった兵四郎は、警官たちに取り囲まれるのですが――警官の手がお蝶にまで及んだことに激昂した彼は、瞬く間に二人の警官を斬り捨ててしまうのでした。

 警官まで殺してしまい、絶体絶命の窮地に陥った兵四郎を救ったのは、軽気球を奪ったお蝶。軽気球に飛び乗ってその場は逃れた兵四郎とお蝶ですが、果たして二人の行く先は……


 と、急転直下、大変な事態になってしまったこのエピソード。最終章だから当たり前というべきかもしれませんが、原作は全十八章であったところが、この漫画版は第七章まで終わったその次にこの最終章が来たのですから、慌ただしく感じられるのも無理もないかもしれません。
 つまりは原作の半分までいかずに完結を迎えてしまったということで(「残月剣士伝」など通常の倍以上の分量であったことを考えれば)、この辺りには原作ファンとしては言いたいことは色々ある、というのが正直なところではあります。

 特に各エピソードが緩やかに繋がり、やがて大きな物語の形を示す本作のようなスタイルにおいては、後半のエピソードがごっそりなかったことで盛り上がりに欠けるのは否めません。
 また、最終章での隅のご隠居と川路大警視の対決シーンで、原作にあった国家論の部分がカットされている(これは以前のエピソードでも同様なことがありましたが)のも、原作者の国家観・明治維新を描いていないという点では物足りないところではあります。


 そういう意味では残念ではあったのですが――しかし、兵四郎個人の物語としてみると、かなり綺麗にまとまっているのもまた事実であります。
 特に「残月剣士伝」辺りから明確になった、死に損ねてしまった侍としての兵四郎(そのことを考えると、「残月剣士伝」の長さも実はそれなりに納得できます)が、ここでついに――という結末は、この構成だからこそ、という印象があります。

 また原作との比較でいえば、原作では兵四郎が自分の考えを明確に台詞でお蝶に(すなわち読者に)説明しているのに対し、ギリギリのところまで伏せているというのは、こちらの方が適切という印象すらあります。また、警視庁側の主人公というべき藤田が、兵四郎を斬首と思いきや――という展開も、結末をより印象的にするアレンジといえるでしょう。
(元々原作の最終章は、作者が地の文で自らツッコむほどご都合主義の部分があったのですが、そこが解消されているのもいい)

 さらにいえば、逃避行の最中のお蝶の姿が輝くばかりに美しく――というのはさておき、この漫画版は漫画版なりに、最も美しい着陸をしてみせたのは、間違いないと感じます。


 アレンジを加えた部分も少なくなく、時にそれが気になることもありましたが、ほとんどの場合、それがこの漫画版独自の魅力として――特に「人も獣も天地の虫」と「幻談大名小路」のラストは、原作以上に印象的でした――生きていた本作。
 なかなか難しいかもしれませんが、いつかまた、このスタッフでの山風明治ものを読んでみたいと、心から思っているところです。


『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第13巻(東直輝&山田風太郎ほか 講談社モーニングコミックス) Amazon

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