細川忠孝『ツワモノガタリ』第8巻 幕末頂上決戦 近藤勇の真髄
新選組の強者たちの戦いを描いてきた『ツワモノガタリ』も、いよいよ完結であります。最後の戦い、本段は池田屋事件――激しい実戦の場で繰り広げられる最後の死闘で対峙する強者たちは誰なのか!? ついに新選組最強の男が立ち上がります。
酒席での新選組の強者たちの剣談から数日後、発覚した攘夷浪士たちの巨大な陰謀。京の町に火をつけ、その混乱の中で京都守護職を暗殺、帝を拉致する――この暴挙を防ぐために出撃した新選組は、浪士たちが集結した池田屋に突入することに……
かくて始まった本段 池田屋事件。言うまでもなく新選組最大の晴れ舞台ですが、言い換えれば最大の激戦。一人一人であれば無敵の強者も、多数を相手にしては――やはり強かった! 数の上では勝る相手に、近藤が、沖田が、藤堂が、永倉が、谷が激闘を繰り広げる中、戦いは新選組有利に進む中、三つの死合が繰り広げられることになります。
その一つは、天然理心流 沖田総司 対 宝蔵院流槍術 吉田稔麿――武術の方の印象は薄い吉田ですが、本作においては喀血の直後とはいえ、沖田と互角に戦う槍術の達人。共に一度池田屋から離れ、援軍を呼びに行ったところでの遭遇という、一種運命的な出会いとなった二人の戦いは、刀と槍という点で、吉田と同門の高杉と原田左之助の戦いを逆転させた構図といえるかもしれません。
しかしこの勝負はある意味番外編、真の戦いはこの後に待ち受けます。
北辰一刀流 藤堂平助 対 神道無念流 桂小五郎
天然理心流 近藤勇 対 神道無念流 桂小五郎
二の段では田中新兵衛と死闘を繰り広げた平助と、彼自身の剣談はほとんど語られていないものの、この池田屋事件で凄まじい戦いぶりを見せたばかりの近藤――強豪二人に、「逃げの小五郎」と呼ばれた桂が相手になるのか? と思わざるを得ませんが、しかし桂は江戸三大道場の一つ・神道無念流練兵館で塾頭を務めた男。当然、弱かろうはずがありません。
しかし史実では桂が剣を抜いたという記録はほとんどないというのもまた事実。そんな桂と、超実戦集団・新選組の猛者が激突する――なるほど、本作の掉尾を飾るに相応しい、意外にして納得、そして夢の勝負であります。
もっとも、この対戦カードを見れば、平助が割を食うのは目に見えているのですが、しかし新選組ファンであれば、平助が池田屋で重傷を負ったのはよくご存じのはず。なるほど、史実の裏付けがあるなら仕方ない――かどうかはともかく、ここは桂の実力を引き出す役をきっちり務めてくれたと言うべきでしょう。
そしてラストの近藤対桂は、単に剣の上での最強対決というだけでなく、幕末の二大勢力の頂上対決という意味も持つ大一番。本作においては、そこに桂の恐るべき意志が秘められていたことが描かれますが――しかしどんな陰謀も小細工もものとはしない、無双の安定感を持つのが本作の近藤であります。
そのどっしりとした、見ただけでむしろ安心感を抱いてしまうほどの盤石の構えから放たれる近藤の剣とは、そして桂はそれをどう受けるのか?
剣の斬り合いが、心のぶつかり合い、それぞれの生き方や思想――「歴史」の勝負となるのは、格闘漫画的な文法を取り入れてきた本作ならではのスタイルでした。この戦いも、時間(分量)こそ短いものの、描かれたものは実に濃厚で、ザ・近藤と言いたくなるような近藤の精髄を見せていただいた思いです。
(そしてまた、二人の流派と使う技が、一の段と対応するものであるのが、またグッとくるところであります)
かくて結末を迎えた『ツワモノガタリ』。幕末最強の剣客は誰か? というシンプルかつ魅力的なテーマを、新選組の強者たちを通じて存分に描いてみせた、新選組ファン・幕末ファン・剣術ファンにはたまらない作品であり、最後の最後まで楽しませていただきました。(個人的には、一の段以外の異次元対決の決着を史実とどう折り合いをつけるのか、という点も楽しみにしておりました)
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