張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第10巻
『捜神記』を題材に妖狐・廣天の冒険(?)を描く本作もついに単行本二桁に突入。都の妖考事部に入った廣天を描く「捜神怪談編」も、いよいよこの巻で完結であります。思わぬ出来事から深手を負った末、殺人犯として獄に繋がれてしまった廣天の運命は、そして石良の夢の真実とは……
道術大会の仲間たちと別れ、色々あって都の怪奇事件を担当する妖考事部に入った廣天(と神木)。そこで異常に暗がりを恐れる青年役人・石良とチームを組んだ廣天は、次々と事件を解決していくのですが――石良の親戚で異常に彼に執着する大富豪・石崇に目を付けられてしまうのでした。
そんな中、とある宿に現れる狐の化物を逃がそうとして、わざと負った傷が想像以上に深手だった廣天。さらに狐に戻って倒れてしまったところを、よりによって石崇に目撃されてしまった彼女は、石崇の手回しによって殺人の冤罪を着せられ、妖考事部も解散することに……
という風雲急を告げる展開から始まるこの第十巻。廣天が牢に入れられるのは確か第一巻以来ですが、その時以降、廣天と比較的長期に渡って行動を共にするのは、基本的に彼女の正体を知っている者ばかりであったように思います。
そのため、廣天が狐と知れて大事になるのは不思議な気がしてしまいましたが、それはこちらの感覚が麻痺してしまっただけなのでしょう。
それはさておき、廣天の方も傷を負っていたとはいえ、第一巻で牢に入れられた時の余裕ぶりとは異なる印象があるのは、彼女が様々な「人間」と触れ合い、そして「人間」として暮らしてきたから――というのは、彼女の妖考事部への馴染みっぷりを思えば、決して考え過ぎではないと感じられます。
思えばこれまでも、廣天は「狐」なのか「人間」なのか、はたまた「妖」なのか、様々な形で問われてきました。それを思えば、人間たちの暮らす街に入り交じって現れる妖たちを描いてきた「捜神怪談編」のクライマックスに、これは相応しい展開というべきかもしれません。
しかしあくまでも「廣天」は「廣天」。彼女が何者かを決めるのは、彼女本人と、そして彼女と行動を共にした者ではないでしょうか。だとすればこの「捜神怪談編」で廣天以外にそれを決められるのは――そう、石良であります。
その石良が何を想い、どのように行動したか、それはここで詳しく述べる必要はないでしょう。しかしそんな彼の存在が、廣天にとって、そして彼女を見守ってきた我々にとっても、一つの救いであることは間違いありません。
(しかし、石良が連れてきた証人のインパクトがありすぎて……)
さて、この「捜神怪談編」には、もう一つ解決されるべき問題、石良を苦しめてきた悪夢の存在があります。
熱を出して寝ていた子供が、高い窓から覗き込んでいる何者かに気付き、部屋から抜け出して廊下の闇の中で何かを見る――第八巻の、すなわち「捜神怪談編」の冒頭で描かれ、石良が異常なまでに暗がりを恐れることとなったその原因である悪夢の正体は一体何なのか?
ここで廣天の導きで自分の夢の中に入った石良が見た真実は――これも詳しくは述べませんが、そうか、そうきたか! といいたくなるような一種ミステリのトリック的な内容には唸らされました。
これまでのエピソードでも小さな伏線を積み上げて、思いも寄らぬ、しかし納得の真実を描いてきた本作ですが、それはこの章においても健在というほかありません。
そしてその悪夢から解放された石良が見る夢は――それは何と恐ろしくも、何と魅力的であることか。もちろんそれは、この「捜神怪談編」全体にも当てはまる言葉なのですが……
これまでと違い、次章のタイトルや内容がまだ決まっていない様子なのは少々気になりますが、またいずれ遠くない日に、新たな一歩を踏み出した廣天の姿を見ることができるのを楽しみにしてます。
『千年狐 干宝「捜神記」より』第10巻(張六郎 KADOKAWA MFコミックスフラッパーシリーズ) Amazon
関連記事
張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第1巻 怪異とギャグと絆が甦らせる新しい古典の姿
張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第2巻 妖狐、おかしな旅の末に己のルーツを知る……?
張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第3巻 「こちら側」と「それ以外」の呪縛が生む悲劇
張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第4巻 妖狐、冥府に「魂」の在不在、滅不滅を問う
張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第5巻 新展開!? 道術バトル編開幕……?
張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第6巻 決着、神異道術場外乱闘編!?
張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第7巻 大乱闘のその先の真実と別れ
張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第8巻 深い闇を覗き込む「原典」回帰編
張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第9巻 ぶっ飛んだ金持ちと真剣に怖い捜神「怪談」
| 固定リンク
